●概要
数ある日本映画の中からとにかくアクション、時代劇、コメディ、恋愛、戦争、サスペンス、青春、ロードムービー、ホラー、ヤクザ映画等を片っ端から集めてみました。
また2000年代の作品を含めたベストとなれば内田けんじ「運命じゃない人」といった傑作群も入れたいです。
ですが、今回は20世紀を彩ってきた個人的な100本+αで構成。
まずは前半50本どうぞ。
※2020年9月15日:加筆・修正。「改定前」
●オススメの傑作・名作
弥次喜多道中記(弥次㐂夛道中記) マキノ正博(雅弘)
日本映画最高のジャンルである時代劇。これぞ娯楽、これぞ映画です。東の果て日本で研鑽されてきた歴史、ヒューマニズムの結晶・混沌(カオス)!
特に本作は「鴛鴦歌合戦」に先駆けたオペレッタ時代劇の傑作で、入門にも打って付けのお祭り騒ぎ。
特に本作は「鴛鴦歌合戦」に先駆けたオペレッタ時代劇の傑作で、入門にも打って付けのお祭り騒ぎ。
冒頭から市街地の屋根の上まで駆けるスピーディーな展開でロードムービーとしても、ミュージカル、コメディと様々なジャンルに当て嵌まる逸品です。
「丹下左膳余話 百万両の壺」。
静かに幕を開けた物語が、いつの間にか大騒動に発展するコメディ時代劇。
道場主夫婦、粋な女主人、隻眼隻腕の凄腕(ツンデレ夫婦の痴話喧嘩)、ヤクザ、子供と様々な登場人物が絡み合う。たった一つの壺に振り回され、しまいにゃ大量に増殖していくカオス振り。
ユニークな場面の連続ですが、終盤における一瞬の抜刀劇の緊張や木刀片手に叩きのめしまくる愉快な道場破りも面白い。
dvdは幻のシーンも収録された日活版(2004)がオススメ。
「映画史を作った50本」にて「西鶴一代女」を紹介。
このページで溝口の作品から自分が真っ先に見てもらいたいと思う作品がコレ。
一番好きなのは「瀧の白糸」ですが、本作も最高傑作の一つ。禁じられた恋愛による逃避行のスリルとラストは溝口にしか撮れない最高の瞬間。
この映画は一つ一つのセリフが刃のように突き刺さる映画でもありますが、そんな言葉をブッ飛ばすほどの抱擁と背中合わせの表情。熱い告白を受けて船の上で激しく抱き合うシーンだけでも魂が震えてしまいます。
溝口については「溝口健二ベスト」を御参照。
溝口については「溝口健二ベスト」を御参照。
石原裕次郎の歌も楽しい、青春コメディ時代劇。
大通りから人々が押し寄せる遊郭まで走り回り、落語のリズムと洒落たセリフや粋なやり取り、新幹線まで突っ走る。
喜劇でちょいと締まりませんが、船の上で刃を持った侍と二人っきり、そんな状況で堂々と渡り合える主人公はやっぱり度胸があってカッコイイ。
鴛鴦歌合戦(鴛鴦歌合戰) マキノ正博
「鴛鴦歌合戦(おしどりうたがっせん)」。これまたオペレッタコメディ時代劇の傑作。
最初から最後まで歌いに歌いまくる大行進、殿様から侍・町娘や傘職人まで張り合う歌合戦。
江戸時代なのにヒステリー、お父さんフルボッコ、傘・傘・傘が織りなす浮世絵巻。
終盤の群がる男どもをヒラリヒラリとかわし、柱で刃を避け、押し車で跳ね飛ばす踊るような殺陣も面白い。
大人の見る繪本 生れてはみたけれど 小津安二郎
「映画史を作った50本」で紹介した「東京物語」をはじめ、戦後の「麦秋」「晩春」(昭和ノスタルジーというファンタジー)にあまりピンと来なかった私ですがこの作品は別格。
戦前の若き江戸っ子時代の小津が撮ったコメディ。下町で遊ぶ無邪気な子供たちが走り回るアクション、そんな子供たちの視点で大人の世界を覗いていくコミカルな描写が面白い。
映画鑑賞会における幻滅するような哀しき光景と変顔。
そこから家族や友達との絆を再確認してく様子が微笑ましい。背中に腕を回して一緒に歩いていく!
小津の異常なまでにこだわったローアングル視点は、後の山田尚子といったアニメーション世界にも影響を与え続けています。
日本のいちばん長い日(日本の一番長い日) 岡本喜八
実際に起きた戦争終結間際における闘いを喜八節全開で描く戦争スリラー映画。
異常な緊張を生むハイテンションの狂った軍人たちの奔走、自転車による移動、言葉による殴り合い、口舌の刃による責め合いが本当に抜刀し襲いかかる殺し合いへ。
中には眼を覆いたくなるような光景も多いでしょう。その屍の山から眼を背けない覚悟のある方だけ御覧下さい。
なんせこの映画はその現実から眼を背けず焼き付けた人々が叩き上げた骨太の傑作なのですから。
喜八の戦争映画は他に凄絶な死闘と慰安婦殿に敬礼「血と砂」、痛快アクション「独立愚連隊西へ」「独立愚連隊」「どぶ鼠大作戦」、庵野秀明「新世紀エヴァンゲリオン」にも受け継がれる地獄の「激動の昭和史 沖縄決戦」等。
・関連記事
伊藤大輔「忠次旅日記(忠治旅日記)」や「斬人斬馬剣」といった作品については「失われた幻の傑作ベスト」、
宮崎駿や押井守といった面々の傑作群については「アニメベスト」、
2000年代の作品については「2000年代邦画ベスト」へ。
軍旗はためく下に 深作欣二
深作の、そして脚本家・新藤兼人の最高傑作。
様々な目撃者が語る戦時下の地獄と戦後の生き地獄。その真相に迫っていく女の孤独な闘い。
気休めの菊と紋章、飢えと恐怖が支配する孤島という密室、密林の中で味方同士が殺し合う狂気の坩堝。
銃弾のように飛び交う拳骨と罵声、上官と部下の確執・憎悪・浜辺における理不尽な処刑。
本作もまた劇中で描かれ、時折挿入される写真が物語る戦争の犠牲者たち。
それを乗り越え戦後を生きた深作たちが強烈に焼き付けた傑作です。
dvdは北米版もオススメ。リージョン・コードの御確認を。
過去の旧日本軍内で実際に起きた事件の真相を探っていくドキュメンタリー映画。
鉄拳飛び交う情報収集、行き着く先に待つ答えとは。
戦後の売春防止法が施行された赤線地帯の末期を描いた作品。
大悪党 増村保造
スピーディーに女の情念を描いたサスペンス。
SF、ホラー、パニック、水爆の恐怖が詰め込まれた怪獣映画の傑作。
他は夢の対決「キングコング対ゴジラ」、「青い真珠」「マタンゴ」「さらばラバウル」「ガス人間㐧一号(ガス人間第一号/ガス人間㐧1号/ガス人間第1号)」等。
円谷英二が参加した作品は他に「ハワイ・マレー沖海戦」、炎が燃え盛る様子が真骨頂の傑作TVドラマ「怪奇大作戦」等。
円谷英二が参加した作品は他に「ハワイ・マレー沖海戦」、炎が燃え盛る様子が真骨頂の傑作TVドラマ「怪奇大作戦」等。
ヤン・デ・ボン「スピード」に先駆けた和製パニック映画。
制限速度を下れば列車もろとも人質を木っ端微塵にするテロリズム。
警察をはじめたった数人で国家に挑む爆弾魔(チョイ悪ヴァイオレンス健さん)たちとのスリリングな攻防。
他は「君よ憤怒の河を渉れ」等。
泥の河 小栗康平
野火 市川崑
タランティーノ「キル・ビル」でもオマージュが捧げられたヴァイオレンス・ギャグ・ヤクザ映画。
戦場から戻って来た男たちが戦後も全力で死闘を繰り広げ、血沸き肉踊ると同時にゲラゲラ笑い(描写がクレイジーすぎて)、殺し合いの虚しさが胸に染みます。
特に最高傑作はドラマに重点を置い粉微塵「代理戦争」、
戦場から戻って来た男たちが戦後も全力で死闘を繰り広げ、血沸き肉踊ると同時にゲラゲラ笑い(描写がクレイジーすぎて)、殺し合いの虚しさが胸に染みます。
特に最高傑作はドラマに重点を置い粉微塵「代理戦争」、
警察vsヤクザの大激突「頂上作戦」、
他はとにかくハチャメチャな和製カーチェイス「暴走パニック 大激突」、
怒涛の階段落としと役者たちの生き様を描いた青春コメディ「蒲田行進曲」、
武闘派公家の凄まじい殺陣「柳生一族の陰謀」 、
爆笑&爆走まっしぐらのカーアクション、エロ、お祭り騒ぎの喧嘩と何でもアリ。
他はハチャメチャな変態馬鹿時代劇「エロ将軍と二十一人の愛妾」、志穂美悦子の女剣士と千葉真一の師匠がカッコイイTV時代劇「柳生十兵衛あばれ旅」等。
他に和製カーチェイスをお探しならパトカーをブッ壊しまくる中島貞夫「狂った野獣」、
他はハチャメチャな変態馬鹿時代劇「エロ将軍と二十一人の愛妾」、志穂美悦子の女剣士と千葉真一の師匠がカッコイイTV時代劇「柳生十兵衛あばれ旅」等。
他に和製カーチェイスをお探しならパトカーをブッ壊しまくる中島貞夫「狂った野獣」、
カーレースは妙にエロティックな西村潔「ヘアピン・サーカス」、
バイク映画は石井聰亙(岳龍)「狂い咲きサンダーロード」で決まり。
ヤクザが指を活かすアイデアにもビックリ。
トラックを待ち受ける奇襲、命(タマ)の取り合いから球の取り合い・潰し合い、長ドス持って仁義なき殴り込み、あらゆる物が宙を舞う大乱闘。
他は愉快な犯罪コメディ「大誘拐」、ブラック・コメディ「殺人狂時代」 、破天荒なミュージカル・コメディ「ああ爆弾」、凄絶な時代劇「大菩薩峠」「斬る」、馬上の攻防や忍者が入り乱れるアクション「戦国野郎」等。
天国と地獄 黒澤明
コレも溝口最高の一本。
犯人とのスリリングな駆け引きと爆走する新幹線からの現金受け渡しを描く前半1時間、刑事たちが犯人を追い込んでいくラスト1時間20分の二段構え!
流れる 成瀬巳喜男
オールスターキャストによる女性映画の傑作。
人によっては「稲妻」や「浮雲」を挙げる人も多いかと思いますが、私が惹かれるのは淡々としているようで、口舌の刃で斬り合いド突き合うような泥っこさ。
多彩な女性陣の演技も凄い。特に田中絹代の演技は別格。
乱れる 成瀬巳喜男
心も髪も乱れ果てる禁じられた恋。列車で異性が距離を詰めていくだけであんなにもドキドキするなんて。
他は原節子や香川京子、根岸明美との張り合いや紙風船による夫婦喧嘩等軽快なやり取りが面白い「驟雨」、「おかあさん」「妻として女として」「まごころ」等々。
他は原節子や香川京子、根岸明美との張り合いや紙風船による夫婦喧嘩等軽快なやり取りが面白い「驟雨」、「おかあさん」「妻として女として」「まごころ」等々。
瀧の白糸 最長版 溝口健二
哀しき恋愛映画。
姉妹作「折鶴お千」とどちらを選ぶかは皆さんにお任せします。
残菊物語 溝口健二
その夜の妻 小津安二郎
事情が明らかにされていく瞬間の微笑ましさ、警官との対峙、拳銃握りしめ警官に睨みを利かせながら睡魔と戦う女性の美しさ。この奥さんが凄く可愛い。
「カサブランカ」に先駆けた去り際。
小津の人情もので他に好きなのはコメディ「淑女は何を忘れたか」「淑女と髯」、メロドラマ「出来ごころ」「母を恋はずや」「浮草物語」等。
小津の人情もので他に好きなのはコメディ「淑女は何を忘れたか」「淑女と髯」、メロドラマ「出来ごころ」「母を恋はずや」「浮草物語」等。
浮草 小津安二郎
他は「DEATH NOTE(デス・ノート)」等。
特に本作はアパートでのやり取りや畳みかけるようなドタバタの微笑ましさ。
他は下着姿で飛び出す自由さ「わが恋せし乙女」、反戦への強い意志を感じる行進「陸軍」、ブラック・コメディ「風前の灯」等。
盲目の侠客が目にも止まらぬ速さで悪党どもを叩っ斬る時代劇。
博打から始まる抜き放つまでの駆け引きを楽しむ面白さ。一瞬の積み重ねが終盤の大乱闘と一騎打ちへ!
完成度は後のシリーズやTVドラマ版の方が上かも知れませんが、この映画を見ずして「座頭市」は語れません。
このシリーズは他に近衛十四郎との一騎打ちや闇夜でも屋内の狭い閉鎖空間でも足を踏み外しても速攻で対応し周囲の壁ごと・敵が鴨居に刃を突き刺しゃその刹那バッサリ・得物を槍のように投擲する「座頭市血煙り街道」、
vs若山富三郎の馬で引きづられる攻防「千両首」、
水くらいゆっくり飲みてえ「喧嘩旅」、
聴覚にこだわった絶望「新座頭市物語 折れた杖」、
斬りまくりを極めた1989年版「座頭市」とどれも必見。
雄呂血 二川文太郎 他
日本映画に革命を起こした伊藤大輔「忠次旅日記」、マキノ正博「浪人街」…その伝説がまともな形で残る傑作剣戟アクションの一つ。
次から次に乱闘・抜刀沙汰を起こし瞬く間に落ちぶれていく平三郎の狂気、終盤に大爆発するヤクザから捕り手の群れまで斬って斬って斬りまくる群衆スペクタクル。
絶えず移動し続け投げつけられる捕縛棒も瓦も縄も振り払い叩き落としまくる。
ボロボロになる衣服、顔は血に染まり、正気に返った者が振りほどくように血まみれの凝り固まった指をほぐす。
バンツマは他に「雄呂血」の原型となる浜辺で得物をべっとり血で染める復讐「逆流」、活劇「影法師」 、断片が残る犬塚稔「開化異相」等。
他は「百万両秘聞(百萬両秘聞)」「間者」「忠魂義烈 実録忠臣蔵」等。
バンツマは他に「雄呂血」の原型となる浜辺で得物をべっとり血で染める復讐「逆流」、活劇「影法師」 、断片が残る犬塚稔「開化異相」等。
他は「百万両秘聞(百萬両秘聞)」「間者」「忠魂義烈 実録忠臣蔵」等。
この「武蔵」だけは稲垣浩に譲れません。
特に「一乗寺の決斗」は戦術家・武蔵の山の上から攻略法を練る一対多数、一触即発の空気を破壊する佐々木小次郎(高倉建)の登場、決戦で剣客の群に単騎で殴り込み死に物狂いで駆けまわり一人一人斬り伏せていく泥にまみれる殺陣の凄まじさ。
このシリーズは宍戸梅軒の一味と対決する外伝的作品「真剣勝負」、
他は終盤における槍の唸りの凄まじさ「血槍富士」、
他は終盤における槍の唸りの凄まじさ「血槍富士」、
凶行にカメラもドン引きしていく狂気「妖刀物語 花の吉原百人斬り」、
現代劇はサスペンス「飢餓海峡」、
クライマックスの闇夜・サーチライト・銃撃戦・バイク・全力疾走の爆走犯罪活劇「警察官」等
雪夜を背に哀しげな表情を見せる原節子の美しさ、刀を引き抜く瞬間に奔る戦慄と微笑ましさ、ラストの薄暗い水路と袋小路における殺陣。
この映画の原節子はとにかく初々しくて可愛い。
「カリオストロの城」にも受け継がれるたった一人の女のために命を賭ける男たちの生き様。
他は脚本「右門捕物帖 六番手柄 仁念寺奇談」「戦国群盗伝」等。
やはり今村は鋭利な刃物みたいな作品が一番。
露天風呂で背後から倍賞美津子のおっぱいをがっつり揉むのだから。
また原爆を題材にした「黒い雨」も恐ろしい。
前半は徹底的な破壊描写なのですが、後半は肉体の内側に恐怖を押し込んでいくように直接的な描写が消えていく。特別版に収録されたその後を描くカラーフィルムも強烈。
大藪春彦の原作とは似て非なる傑作。
原作もオススメ。
簪 清水宏
「簪(かんざし)」。
元祖アッバス・キアロスタミとも言うべき清水が撮ったコミカルなやり取りが楽しい作品。「按摩と女」とよく似たプロット、会話のおかしさ、子供たちの実況、徐々に難易度を増すリハビリ風景をスリリングに描く描写、幾度も同じようなアイテムを重ねていくのが楽しい。
50本の締めくくりは戦争映画さながらに泥にまみれる時代劇で。
前半2時間の仲間集めと戦闘準備、後半1時間30分の死闘、大刀から弓矢、槍、無数の竹槍の一撃が野武士を打ち倒す。