「春秋一刀流」丸根賛太郎:運命を斬り開け!

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丸根賛太郎が鮮烈なデビューを飾った傑作時代劇・剣戟アクション。
抜刀した男たちの群れが横一列・左右交互にズンズン突き進み、激突する両軍!…と思いきやそれを涼しげな顔で『真面目にやっとる』と抜き身を突き立て傍観する用心棒ふたり。
橋の上での一悶着と出会い、なるべくハナクソほどにもならない割に合わん仕事はしたくない。

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そんな男たちが回想形式で街道を練り歩く行進、船団を率い川を下り、四方八方メッタクソに斬って斬って斬りまくる群衆スペクタクルの大喧嘩!
白刃の群れが斜め・横一列・画面一杯に突撃する迫力!
散歩途中で襲われても一瞬で二人斬り倒し、最後の一人も飛び回るようにヒラヒラ交わし速攻で抑え込む。
鍔迫り合いやジリジリ距離を詰めることはほとんどせず、すれ違いざまに斬り倒していくスピーディーな殺陣。
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刺客を伝令代わりに送り返す喧嘩上等、フィルムの状態の悪さが以前からあった演出の如く急なめまいに拍車をかける。
前半の日記形式で戦いを振り返る洒落たユーモア、後半の山中貞雄を思わせる死の匂い。
延々と続く闘争、戦いが激しくなればなるほど重くなっていく雰囲気。
運命から逃れようと共に夢を語り合った仲間が次々散っていくやるせなさ。
 
主観ショットで捉えられる障子を前に薙ぎ倒す侵入、襖をあけてあけまくった先で遭遇する斬り合い。小屋に入る際の油断は禁物。表情一つ変えなかった者が涙を拭い瞼を閉じる場面が切ない。
上陸した一味に狙いを定める鉄砲隊の黒い影、着た者を蛮勇にする『本当だー!』の白装束。
 
お経が響く中、縁側で心情を吐露する場面は当時の第二次世界大戦という明日をも知れぬ世の中の空気が反映されているのでしょうか。
沢村国太郎(澤村國太郎)が決戦を前に何かを悟ったのか皆の前で胸の内を告白する場面も、時代背景を想わずにはいられません。
それを知るや否や一人残されるくらいなら戦って死にたい、いやこれ以上仲間を死なせるものかよ、運命を斬り開いてやると言わんばかりに着替えよろめきながら刀を抱きかかえ飛び出していく!
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木々を通り過ぎながら全力疾走で街道を走り抜け(伊藤大輔マキノ正博「血煙高田の馬場(決闘高田の馬場)」の爆走と見比べたい)、石のように斜面を転がり斬り結び、表情に黒い影を帯びながら殴り込む最終決戦!
それにしても全盛期の片岡千恵蔵志村喬が出ている映画の名作率といったら。
志村はマキノ正博「鴛鴦歌合戦」等で響かせた歌声を今作でも短い時間ながら披露。
 
あと、どうでもいいことですがタイトル画面を縦読みしたら「春一秋刀流」になりますね(当時勘違いしたまま覚えた観客はどれくらいたのでしょう)。
いつか正式にDVDといった次世代ソフト化でこの状況を逆転させてほしいです。

画質について

今回「アマプラ(アマゾンプライムビデオ/Amazon Prime Video/Amazonプライム・ビデオ)」で配信されていたver.の画質はVHS(ビデオ)から直接焼いたのか画面下の部分に砂嵐と横線がザラザラ入っていました。
音質も良い方じゃないのでせめて字幕機能は欲しいですね。
そういえばフランク・キャプラヨリス・イヴェンスたちは1945年のプロパガンダ「汝の敵、日本を知れ(驚異の大日本帝国/汝の敵日本を知れ/Know Your Enemy: Japan)」制作にあたり「春秋一刀流池田富保「殉教血史 日本二十六聖人といった当時(1930年代~)の日本映画をいくつか引用していました。
「春秋一刀流はクライマックスの河原における決戦場面(何故か別映画の鎧武者が突っ込む場面と混ざっていたり)。
大陸の占領先で入手したのでしょうか。
というより「汝の敵」で引用された場面の方が日本に残っているものより画質が良いという皮肉な状況。

「アマプラ(VHS)」

「汝の敵」

見てもらえれば一目瞭然ですが影で黒く潰れてしまっていた部分や空の雲の様子、足元の小石までくっきりしていて凄いです。

↓はVHS版パッケージ

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