このページは「①」からの続きです。前回同様ネタバレ全開。
●「ルパンVS複製人間」
「1t」絵コンテから関わって来た吉川惣司による「ルパンVS複製人間」。
モンキー・パンチの原作を思わせるダーティー&コミカルなギャグ、シリーズよりも小さい黒目と突っ張った肩でエネルギッシュに駆け抜ける。「ルパン三世」シリーズを含め様々な映画へのオマージュ・パロディ(TVアニメ版「星のカービィ」でも健在)。
「2nd」の大人でも子供でも元ネタを知らなくても・知ればよりニッコリな遊び心。どこまでがギャグでどこまでか本気か。深刻な題材もルパン音頭で猛爆の中を突っ走る男たちで締めるのだから(TV放映じゃ色んな事情で色々カットされるしやはりDVD・Blu-rayを買って楽しもう!)
なんたって後に組む高橋良輔「装甲騎兵ボトムズ」にも続く神殺し!
いやマモーがどんなにスケールの大きなことをしでかしても、ルパンには規模がデカいだけのペテン師にしか見えない。
前半アレだけ謎に満ちた存在、顔の見えないマシンの数々で襲い掛かり得体の知れない恐怖に満ちていた敵。焼け残ったアジトにおける口論と亀裂、荒野で拡がる一味の心の距離。
付き合いの長い五ェ門が次元の帽子の下を知らぬわけがない。フサフサだったりオールバックだったり変装や刑務所で見飽きてる。毛根ごと斬りたくなってるくらい忍耐の限界。次元だって自分までヒステリックになったらお終いだと我慢していた。ルパンも缶詰や水といった食事にがっつき耐える。
それが神とやらがわざわざ本拠地に招き入れてやることが壮大な自慢大会ときたもんだ。だいたい神様が女一人に執着するかってんだ。本当に何万年も生きてやっと不二子なの?考え直せあの不二子だぞ?
うん万年が真実だったとしてもクローンで延々死を・存在の消滅を恐れた偏執病パラノイア。
今までの強敵たちはどんなに凶悪でも一つの命で挑んできた。不二子だろうと火だるまにしたパイカル、タイムマシンで一瞬にして消す絶望を見せつけた魔毛狂介。それと比べればマモーの器の小ささはルパンの闘争本能をへし折れなかった。虚飾で誤魔化す謎を暴き続ける。
最後の決戦も五ェ門・次元の手も借りずたった一人でケリを付けられると判断されているのだから(土壇場で五ェ門の置き土産が状況をひっくり返す名場面もあるけど)。
複製で本物か偽物か揺さぶりをかけようがルパンは結局ルパンなのだ。起きてる時に不二子という夢を追い続ける男なのだから。
不二子にしても隠しカメラで覗き見する悪趣味成金野郎という嫌悪感が最後まで引っかかっていただろう。
ルパンなら「魔術師と呼ばれた男」のように不二子が汗を流している間に酒を冷やし、もてなしの食事を次元と一緒に作って待っているのだから。
あくまでビジネスパートナー。永遠の命に傾きそうになっても、知識ひけらかすだけの男だったわとルパンのところに戻っていく。
ヨボヨボのルパンは見たくない。かといって複製の劣化で自分を偽り続けるしわくちゃも見たくない。
永遠を求める醜さよりも限りあるこの一瞬、たった一人の女のために幾度も地獄に戻って来るルパンが見たいのだ。
全裸に黒衣のライダースーツを身にまとい今日もルパンを騙しに行く。「パイロットフィルム」、「1st」opで大塚が描き直した、EDの夕陽の中を走るシルエット不二子のイメージも彷彿とさせる。
二人きりで下着姿だったのは情事のためではなく情報伝達手段を隠すため。
マモーの超科学・美術・知識の数々をズラズラ並べ立て『どうだ私は凄いんだ!お前たちに出来ぬことができるんだ!!私は神なんだ!!』とやっても目の前のイチャイチャで不二子が自分の物にならないことにイライラしたり、夢を見ないことに狼狽えたり、そもそも神様が何べんもブッ殺されてんじゃねえよと。
部下のフリンチも斬鉄剣でも斬れないチョッキで調子こいてるデクの坊。全身覆わない慢心がグロとギャグの境目でダルマ落としのように視界がズレてくたばらせる。
神様気取りでカフェでカタギ巻き込む襲撃、地震で街を破壊、世界中も火の海にしようとするんじゃミサイルの雨で黙らせようとするクソ合衆国と何も変わりゃしねえ。
かと思えば自ら拳銃握ったり、催眠を使ってでも不二子を連れ去ったり、レーザーを操作するために戻ったり本当は人間として対決したかったのだろうか。燃えさかる中であのギョロ眼が不二子の元に駆け寄っていく。どこまでも可哀想なマモー。
最後の巨大な脳味噌もハッタリばかりで結局は成れの果て、申し訳程度の近づきづらいバリアで時間稼ぎして宇宙空間にトンズラ。へばりついた爆弾を取り除くことも出来ない。
●小池健「LUPIN THE IIIRD」シリーズ
「複製人間」を見た後にこのシリーズを見るとよりニヤりと出来る。
「次元大介の墓標」後半
アニメーターとして山本沙代「LUPIN the Third -峰不二子という女」にてパンチの原作をイメージさせるようで独特の雰囲気でエロティックかつ幻想的な不二子を描いた小池。
今作では監督として作品ごとに主役キャラそれぞれをイメージした世界観で死闘を描く。
次元はヨーロピアンな都市、五ェ門は日本の神秘的で自然豊かな和風、不二子は荒野と街中を行き来。
奇妙で独自のこだわりを持つ殺し屋たち、ルパンたちを尻目にガッツリ飯をくらい服を着替え(「次元大介の墓標」)、眠くなれば刑務所をホテル代わりにもする余裕(「血煙の石川五ェ門」)。
奢り慢心ごと叩きのめす強者として、死闘を経て通じ合うものを感じ意趣返しする漢たちのやり取り。前半ピンチの連続と後半からの逆襲。
不二子はそんな野郎どものやり取りを馬鹿じゃないのと言わんばかりに仕事を完遂させる。髪型も服装も一エピソードごとに変える変幻自在。ロングヘアのショーガールから際どいショートボブ、露出の少ない母替わり。
悪趣味変態倶楽部で全裸にされようがルパンさえ来ればどうにでもする。バイクスーツだけサッと身に包みルパンを連れ貸し借りチャラで乳揉みに気を取らせ得物を取り合う騙し合い。
「血煙」ではマッサージから進展せず見切りをつけ、「峰不二子の嘘」では本当に母親になるかならぬか大人になれるかなれないか人は変われるのか。
今まで以上に色香が通じない敵ばかり(宿のオッサンも我に返ったか冷静に通報したり)。不二子も蹴りから拳銃・ナイフを使いこなしガラスごとブッ飛ばされ生傷にまみれながら戦い抜く。
汚れ仕事を男に任せるだけの人間ではない。ルパンもそうだが不二子も細い手足で必要最低限の肉体を保っている。衣服からこぼれる乳房も男が服・肉体を引き裂かれ裸体を晒すのと同じ領域に入る。
とはいえ次元の様に射撃力で敵の武器を凌駕したり、五ェ門のように肉を切らせて骨を断ち戦えるほどの豪傑ではない。だからこそ不二子にしか出来ぬ戦法。呪いしか知らなかった者が心を揺さぶられ初めて“女”を認識する瞬間に賭ける!
ルパンたちはパンチの原作を彷彿とさせる黒い斜線の影を背負いつつギャグは少ない。ユーモアはあっても生傷を戦いが終わるまで引きづり続ける。原作や「1st」の渋さをより煮詰めつつ歴代シリーズも思い出すサービス。
私はこのシリーズも中々楽しませてもらいました。同時に、本当に黒幕コイツで大丈夫か?またクローンの死体の山築くのかとか勝手な心配をしてしまう。魅力ある小池健ワールドの悪党たちが今度どうなってしまうのかが気がかり。やっぱあの場で殺してやった方が慈悲深かったんじゃないかなみたいな展開にはならないと思いますが。小林清志はどの程度小池たちから構想を聞かされていたのでしょう。
あと五ェ門の扱いもメチャクチャ苦労してた感じ。出番は「血煙」のみで彼を主役にするにはルパンたちじゃ太刀打ちできない最強の化物をぶつけるしかない。発表形式が毎度前・後編合わせた50分だけで尺の都合もあるんでしょうけど。
2025年公開予定の締めくくり「LUPIN THE IIIRD THE MOVIE」を見なければ最終的な感想は書けそうにない。今まで脇に徹していたルパンやもう一人「血煙」にしか出なかった銭形の本格的な対決が描かれたら嬉しです。その時にはこのページの分量も変わっていることでしょう。
●「LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族」
※2025年7月6日加筆:さて、不安半分楽しみ半分で待っていた「不死身の血族」。
...正直な感想「複製人間」を意識しない方が絶対面白かったよねという。そもそも声はともかく作風も絵柄も性癖も違うというレベルじゃなかったですが。
とはいえ今までは「複製人間」を知らなくても独自の世界観が確立されていたから、過剰な回想や説明が無くても楽しむことが出来たと思うんです。次元や五エ門という強者に『俺の考えた最強の殺し屋』を説得力ある描写で激突させ、それに喰われそうで喰われない変化と逆転劇が痛快だった。
今回はこの人が主役だから他の仲間の活躍が少なくてもしょうがない、いや要所要所でちゃんとサポートしてるしいいかと。
特に次元は「2nd」「partⅢ」等で顕著だった帽子を被らないオールバックだったりフサフサ目隠れでも次元とハッキリ認識できるカッコ良さが「墓標」でも拝めた。帽子姿も引き立てる程度にです。
不二子の裸もちょっとだけだから良いのであって(終始そういう扱いは退屈で飽きる)、風呂に入るのも「嘘」の生傷で疲れた体を癒したり他者のために文字通り人肌脱ぐ人間味を描く上で必要だったんだなと。
血が出るなら殺せるはずだ、敵も一個しかない命を張って戦い抜く人間なのだと勝機を見出し、完全武装で反撃に転じるからこそ。予備知識が無くても・あればもっと楽しいぐらいの塩梅。歴代の名作群もしかり。
面白いルパン作品は他のルパンなんざ知ったことか!と他のルパンじゃ拝めないルパン合戦を勢いと作り込みでねじ伏せてくれました。
なんなら今回のルパンも『実はこのルパン一味はクローンでした!全員ブッ殺しまーす!』で複製人間の絵柄のルパンたちが登場ぐらいトンデモ展開されても驚かない自信がありました。
ただ「銭形と2人のルパン」や今シリーズのクソ真面目な銭形たちが「複製人間」でコミカルになるのが到底信じられないくらい強引。
個人に焦点を当てた殺し屋vs殺し屋の小池ワールドがいきなりあのスケールに?どうあがいても「複製人間」になるのか...本当になるの?と説得力を欠いたまま終わったと言いますか。
案の定こんなことになるなら殺しといたほうが良かったヤエル奥崎が活躍しまくり途中から帽子かぶらな過ぎて誰だっけお前になっていく次元どころか全員の存在意義が危うくなる。いや奥崎カッコイイんだけども!
「墓標」や「血煙」で激戦繰り広げた因縁ある他キャラがあの扱いになるなら、いっそ「不死身のヤエル奥崎」にしちゃっても良かったんじゃないかってくらい。そんなのは違う監督がかつての強敵を勝手に復活させ微妙な出来になった有象無象だけで沢山だってのに!
それ以上に衝撃的な登場から雑に死んでいく謎の強敵たち。謎の少女も本当に謎のまま終わる。ムオムは絶望を通り越して胃もたれするレベルで強すぎる。
つうかなんで同じ2025年・同じ脚本家の梅津泰臣「ヴァージン・パンク Clockwork Girl」の方が戦うカッコイイ女を見れるのかどういうことだ高橋悠也あーっ!!!!!
お前のルパンへの情熱は梅津美少女に吸収されちまったってのかー!!それ監督した小池えーっ!!!!!...とまあ単体として見ても、シリーズを追い続けた果てに見てもモヤモヤする作品になってしまったのは残念です。
●ルパン三世と老い

ところで、年齢を重ねたルパン一味というのは作品のリアリティを追求するなら恰好の題材だ。
人間は齢をとる。アニメ・漫画の人間だってある程度年齢を重ねた状態で登場する。それ以降に齢を取らないまま終わることもあるが過去や未来だってある。
映像化され声がつけば嫌でも意識せざるえない。元来武器にさほどこだわらないルパンたちが時代と共に変われない・譲れないものを見つけてしまい抗う様も魅力だがどうしようもないものもある。
創作の中の人物だけは永遠でいて欲しいという人もいるだろう。しかし「ルパン三世」はマモーの永遠を否定した。三世だって一応は初代から連綿と受け継ぎ三代目として存在している。まして演じる役者・声優は嫌でも老いていく。声質声色も変わってしまう。本当なら役者の年齢に合わせた年相応・実力を存分に発揮できる役を演らせるべきなのだ。
声の若々しさや幼さは本来売りにするべきものじゃない。人間には限界がある。俳優だってその時々で齢に見合った役を演じる。むしろ若作りで無理している痛々しさのようなものを感じる方が嫌だ。
色んなルパンがいて良いなら色んな声のルパンがもっとあっても良かったのだ。パイロットフィルムや「1st」がそうだったように。「ルパン三世」は長続きしすぎたのだ。この作品・キャラはこの声でなければならないというイメージ・愛着・固定観念が苦しみに変わるほどに。
毎回違う声だったら制作者やファンもこれはこれでと割り切ることができる。
次元はまだ髪の毛ボーボーで若々しいとか若作りしてるおじいちゃんと言い張っても通じるかも知れない。だが声は偽れない。小林清志にもっと早く勇退させ、次元みたいな渋い老ガンマンと二代目次元を務める大塚明夫が師弟のようなやり取りをするのも拝んで見たかった。明夫も年齢的にギリギリなんだぞ製作スタッフ。
一味がシリーズで老人に変装する度に『さすが芸達者だなあ』よりも『コッチの方がしっくりくるなあ...』と一抹の寂しさを感じるようになる。
特に次元は「1st」から老人に化けることが多かった。「Part5」ではルパンと共に老人に扮し彼等が歳をとったらこんなイメージかな、本当はコッチがリアルな年齢なんだろうなとか考えてしまう。
山田康雄の後を継いだ栗田貫一も演技力が洗練され磨きがかかっているが、彼も年齢との戦いがある。モノマネが本当の二代目になって悪戦苦闘を続けて来た者はどこまで限界に挑めるのか。
五ェ門にしろ不二子にしろ銭形、ルパンもだ。若い頃ブイブイ言わせ老いて増々盛んな伝説の老人...私が次に見たかったルパン三世はそれなのだ。
山田康雄もルパンではないが亡くなる前に老境のクリント・イーストウッドが時代の終焉を描く西部劇「許されざる者」でも吹き替えを演じている。TVドラマ「ローハイド」から長年演じ続け、ルパンじゃ出来ないことを他の作品で経験し旅立って行った。
8世13世まで行かんでもルパン小僧じゃなくとも4世ぐらいはあっても良かったんじゃないかと思う。ルブランの遺族が黙ってないだろうけど。