「香も高きケンタッキー」-ジョン・フォード最良の馬映画

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香も高きケンタッキー
Kentucky Pride
 
ジョン・フォードによる女の、人間と同じように家族となった一人(一匹)の女性の物語。
ちなみに脚本は女性脚本家の先駆者的存在の一人ドロシー・ヨスト(Dorothy Yost)。
 
この世に生を受けた仔馬…いや彼女が初めて見る人間、まだハッキリと形を捉えられない視界。
それを見にパーティーから馬小屋に駆けつける人々。煙草の煙をくゆらす野次馬のような連中もいれば、背を優しく撫で純粋に誕生を祝う無邪気な少女もいる。

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陽の光差す牧場で馬同士、人々と触れ合いながら成長していく馬、馬、馬たち。
戯れ、前脚を高くあげてじゃれあい、寝転がり、成長しあっという間にレースの日を迎える。
 
時に遠くから、時に間近まで接近し捉えられる馬たちの走り。
柵を飛び越え共に駆けだす牧場、騎手が身をかがめ速度を引き出す競馬場、車が交差する市街地の雑踏まで画面いっぱいに収まる全身のアクション。
撮影のジョージ・シュナイダーマン(George Schneiderman)は三悪人」「アイアン・ホース」「周遊する蒸気船」「プリースト判事」「ドクター・ブル」等にも参加した名手。

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別れを予告するレースでの悲劇、ライフルに込められる弾丸、しがみつく説得、構えるも顔がチラつき中々引き金を引けない葛藤。
噴き出す煙が、凶器を投げ渡し、皿を投げつけることで伝わる怒り。泣きつく子供の表情の変化が物語る安堵。
 
馬たちがじゃれ合う姿だけでも和みますが、様子を伺い行ったり来たりの三人組とか、何時ぶつかり轢かれるか分からない恐ろしい交通整理も何処かユーモラス。
 
触れられた手によって蘇る記憶とすれ違い、届かない顔を必死に近づけ、訴えるように濡れた地面を鳴らす蹄。
もしもこの映画が音のあるトーキーだったら、この“叫び”は群衆のざわめきや雨音によって遮られるであろう届かぬ想い。
雨の中をずぶぬれで待たされ、パンすらもらえず雑草で飢えを凌ぐ孤独。

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暖かい陽の下で交わす再会の頬ずり、腹ごなし。机に杖を叩きつける開戦、馬車の周りを一周し、汚せぬ一張羅を脱いだら反撃開始!割られるガラスと共に開く扉が告げる決着。
 
引き裂かれた者たちが、レースという熱狂の中で再び巡り合う再会・抱擁・記念撮影の賑やかさよ!
スタート直前のアクシデントも、そこから立ち直ることで次の時代の頼もしさに早変わり。

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さて画質についてですが、フィルム・センターで見た時も最良と言える状態ではありませんでした。
ネットに挙がっている動画はさらにその写し(上映していたものをそのまま撮ってアップした感じ)。
 
フォード作品も1950年代以前の作品は多くがパブリック・ドメインになっており、1925年に撮られた今作も本来は著作権的には無料のはず。
ところが、この作品は正式なソフト化が未だされていないらしいのです。アメリカ本国でもまだ未DVD化(VHS版すら出ていない可能性が)。
映画館では特別な機会を含めても見ることができるのに…何かソフト化できない事情でもあるのでしょうか。
一応原題で検索すると動画サイトやDVDサイトで情報が登録されているところもありますが…amazonといった大手での取り扱いは見当たりません。
ネットに挙げた人間は「この名作を気軽に見れない現状に対する異議申し立て」とか「限られた人間たちだけで独占するな」とか、アレコレ思うところあって動画を挙げたのでしょうか。
…まあそんなことは映画会社がさっさとソフト化してくれれば誰も思わないわけですが(挑発)。
 
この時期のフォードの馬映画といえばレース要素の強いシャムロック大競馬(誉れの一番乗)も忘れられません。コッチはDVD化されているようです。
何処かがセットで改めて出してくれないものでしょうか。