「ルパン三世」の映画的面白さの源泉

ルパン三世を彩った演出、脚本家はいずれも映画好き・その影響を受けた上で独自の進化を遂げた強者揃い。
その中から6名の作家について紹介。

大和屋竺


2話「魔術師と呼ばれた男」脚本
 
シリーズにシナリオとして長く携わった彼は日活で脚本・映画監督として活躍した筋金入りの活動屋。
マキノ雅弘次郎長三国志の愉快痛快な時代劇、師である鈴木清順「殺しの烙印」の無国籍アクションとエロティシズム、セルゲイ・エイゼンシュテイン戦艦ポチョムキンの流血と暴力といった数多の映画を浴びるほど見まくり学んできた男なのです。
実写映画のリアリティとエッセンスを日本アニメに持ち込んだ一人。
日活アクションの荒唐無稽な面白さとアニメーションの表現力が合わさった時、実写の限界を超えるような作品が生まれていくことになります。
 
 
大和屋の他にも日活映画で腕を鳴らした脚本家たちが「ルパン」シリーズの奇抜で斬新なエピソードの数々を創っていきます。

山崎忠昭


1話「ルパンは燃えているか・・・!?」脚本
 
大和屋と同じく日活アクションでシナリオを書きまくっていた無頼漢。
大和屋の先輩。
中平康紅の翼の犯罪と漢の生き様、「シェーン」「ギターを持った渡り鳥」の流れ者、ジュゼッペ・デ・サンティス「にがい米」のはちきれんばかりの色気。
常に鬱憤をため込み怒りまくり、そのエネルギーを面白い脚本創りに叩き込む男。とにかく非日常の荒唐無稽かつ破天荒な世界観を書かせたら絶品。
今回は記念すべき第1話を飾り、密度の高い展開で唸らせてくれます。
 

大隅正秋(おおすみ正秋)


1話含め主に前半エピソード演出
 
大和屋の映画を見て惚れ込み、彼を「ルパン」の脚本陣に招いた男。
演出家としてTVアニメ「ルパン」の基盤を創った一人。
人形劇の世界で大和屋同様にエイゼンシュテインモンタージュ理論を学び、アニメ演出家時代はジョン・フォード「静かなる男」の豪快さ、小津安二郎の静の魅せ方とユーモアの流れを参考にする。
「怪物くん」ムーミンといった大人から子供も楽しめる作品で演出をする傍ら、大和屋作品のようにアニメでもハードな大人の作品(ハードな時代劇アニメ佐武と市捕物控といった前例はありましたが)を作れないかと模索・追及していきます。
 

大塚康生


「1st」キャラデザ&総作画監督
 
大隅に抜擢されたアクションアニメーター。
とにかく“動”で魅せに魅せまくることを信念に置く。
東映の劇場作品で「アニメは動かしてなんぼ・当たり前」という制作現場で徹底的に叩き上げ鍛えてきた男。高畑、宮崎と共にファミリー向けでがむしゃらに挑み続ける真剣勝負。
ポール・グリモー&ジャック・プレヴェール「やぶにらみの暴君」やイワン・イワノフ・ワノせむしのこうま(せむしの仔馬)」といった活劇の醍醐味が詰まった作品の流れ。
大塚のディティールへの拘りと大隅の演出、動と静がカッチリ合わさりより高い完成度に。
 

高畑勲


23話含め主に後半エピソード演出。宮崎と共同
 
大隅がバックれて困っていた大塚の依頼を受けて宮崎と共に参戦。
大隅同様「やぶにらみ」をはじめ白蛇伝の模倣の中で凝らされる技法とアイデア、小津の静寂、ジャン・ルノワールのユーモアや移動撮影といった動きへのこだわり。
ディティールや世界観へのこだわりはやがて骨太な作品造りに繋がっていく。
 

宮崎駿


23話含め主に後半エピソード演出・各話原画
 
ジョン・フォード黒澤明山中貞雄の活劇、アクション、ユーモア。
そこに「やぶにらみ」「雪の女王といったアニメーションの表現世界からの影響。高畑と共に世界的な影響・注目を浴びる宮崎も映画で学び成長した一人。
世間がスポ魂やSF、スペースオペラといった様々なジャンルに挑み染まっていく中、普遍的な活劇の面白さ・表現力をひたすら追求し続け子供も大人も一緒になって楽しめる作品を量産していくことに。
磨き上げた空間描写にかけてはアニメ界でも指折り。
豪快かつスリリングな活劇の面白さは王道を極めたカリオストロの城で存分に楽しませてくれます。
そこには本来大人向けとして作られた「1st」をいかに「万人が楽しめるエンタメにしていくか」という試行錯誤が実を結んだからなのでしょう。プロデューサーから突き付けられた路線変更という名の制約下で。
 

そんな凄い奴らがルパン三世という作品で切磋琢磨していたと思うと…。
「ルパン」の新作作ってるスタッフも、従来の「ルパン」をなぞるだけじゃなく先人を見習いもっと面白い映画を見まくって学べばより面白い作品を作れる...はず。