大和屋竺の本「悪魔に委ねよ」が面白い


かつてサミュエル・フラー「映画は戦場だ」と映画を撮ること自体が戦争のようなものだという言葉を残しました。日本でも大和屋竺のように、そういう体験をした強者が日本のエンターテインメント界を支え続けた…この本は、それを実感できる本の一つです。
 
大和屋の数十年に渡る批評を集めたもので一見分厚いですが、面白すぎて厚さを感じませんでした。とにかく凄まじいエネルギーと“熱”が伝わって来ます!!
 
冒頭は「裏切りの季節」「殺しの烙印」といった大和屋が監督したり関わったスチール写真、絵コンテ、直筆原稿の一部。
 
幼少時に体験した朝鮮人労働者への差別、戦時下の混乱による一触即発の緊張、戦後に味わった戦場さながらの撮影現場。
 
学生時代に「鬼軍曹ザック」の看板を描いた想い出。
作品についても戦場の臨場感について語っていましたが、作品の反共精神については否定的でした。しかしあの時期のフラー作品における反共精神はむしろ褒め言葉というのがまた。
 
師である鈴木清順への想いも熱いこと。大衆を愉しませた作品の一つとしてけんかえれじいの名を挙げ、その作品を撮った清順から一方的に映画を撮る機会を奪った上層部をdisりにdisり怒りを爆発させていました。とにかく大和屋はブチ切れまくり。

清順と組んだ「殺しの烙印」
 
「沈黙」への評で買っていた存在であった斎藤竜鳳に対する反論も熱い。買っていたからこそ、竜鳳の「みな殺しの霊歌」評を全文掲載してまで加藤泰を大弁護するのが面白い。
 
その他にもマキノ雅弘セルゲイ・エイゼンシュテイン若松孝二、羽仁進、ルイス・ブニュエル、ダミアーノ・ダミアーニ、レニ・リーフェンシュタールサム・ペキンパーについても語りまくる。
リーフェンシュタールの撮る姿勢の凄味、表情の異常なまでのこだわりについては恐怖したとか。
マカロニウエスタン「群盗荒野を裂く(何故殺すのか)」は大傑作とテンションが最高潮だった気がします。
 
監督を手掛けた「毛の生えた拳銃」といい、大和屋のアクション映画に対する情熱は凄まじいものがありますね。

「毛の生えた拳銃」は後のルパン三世のエピソード「魔術師と呼ばれた男」に繋がる演出が多いです。
 
ただ本人がど忘れしたり、役者が出演していない作品に出演していたと勘違いしてしまっている部分が二、三か所ありました。その辺はこの本を編集した面々が補足してくれています。
その気遣いを索引ページを作ることにも割いて欲しかったものです。これだけのページ数で索引が無いのは不親切です。まあ、不満点はこれぐらいなんですけどね。
 
幼い息子(大和屋暁)との微笑ましいエピソードも楽しい。TVの教育番組「ピンポンパン」の真摯な姿勢を子供と一緒に愉しんだり、スター・ウォーズに熱狂する息子、冷めた眼で見てしまう父親の対比。そんな大和屋も「帝国の逆襲」は闘争の刻まれた映画だと唸ったそうな。
 
個人的には大和屋も脚本・シリーズ構成として関わったルパン三世ガンバの冒険等の話も聞きたかったですが、本人的にはあまり記憶に残っていなかったのでしょうか。天才バカボンについては自由にやれて楽しかったのかと面白可笑しく語っていましたけど。
 
大和屋がTVアニメルパン三世シリーズに与えた影響は計り知れません。本書では語られませんでしたが、大和屋が脚本を手掛けた「殺しの烙印」
殺し屋どもと美女が繰り広げる荒唐無稽、自由奔放なこの無国籍アクションの傑作は、そのままルパン三世の醍醐味にも脈打っているのです。
大和屋はハードボイルド色が強い「1st」初期、コミカルでより親しみやすくなった「2nd」モンキー・パンチの原作世界を強く押し出した「PARTIIIまで関わり続けたのですから。
 
大和屋の「ルパン」の脚本を含んだ作品集は大和屋笠ダイナマイト傑作選 荒野のダッチワイフに乗っているのでソチラも御参照下さい。

※どうでもいい話
私が買った本には新聞の切り抜きが挟まっていました。「映画一体感染 ダブルサイド」で作曲家の山下洋輔が大和屋や若松作品で音楽を手掛けた思い出を語る記事でした。
 
※2017年10月12日(木)追記
「1nd」と誤記していた箇所を「1st」に修正いたしました。申し訳ありません。