蓮實重彦「どこまでもハリウッドにこだわった西部劇ベスト50」

「大砂塵」より

この記事について

「映画狂人、神出鬼没(安原顕の編「映画の魅惑―ジャンル別ベスト1000 (リテレール別冊)」からの再録)」に載っていたリストです。
 
セルジオ・レオーネ「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト(ウエスタン)」を評価したり、映画史的にエドウィン・S・ポーター大列車強盗にも触れていましたがあくまでアメリカのハリウッドで撮影された作家別の50本に絞ったとのこと。
プレストン・スタージェス「バシュフル盆地のブロンド美人(バッシュフル・ベッドの金髪娘)」も除外されています。
 
「作品」ではなく「作家」別というのが興味深い。
私が別ページ蓮實重彦のオールタイムベストにおける160(141)本のリストを作家別にまとめたのも西部劇のベストを参考にしたからなのです。
 
またエルンスト・ルビッチやアルフレッド・ヒッチコックが西部劇を撮らなかったこと、ジョン・フォードといった西部劇を愛するジョージ・ルーカスやスティーヴン・スピルバーグ、西部劇から監督を始めたフランシス・フォード・コッポラがこのジャンルに手を染めなかったことにも触れる(西部劇のテイストは別ジャンルでふんだんに盛り込んでいましたが)。
 
ただ評価ではなく映画史として取り上げるべき・「何故撮ったのか」という興味本位で選んでいる作品も多数あります。なので作品名&監督 他の下に個人的な補足・考察を記載しました。
私のつたない文章はあくまで参考として受け取って貰えるとありがたいです。
 
なおこのリストは「リテレール別冊3映画の魅惑」において1993年の9月に作られたもので、当時リストに入れられなかったモーリス・トゥールヌール(モーリス・ターナー)やトーマス・ハーパー・インス(トーマス・H・インス/トマス・H・インス)の作品をほとんど見れていない事も語りつつ自身の無知を恥じている様子でした。

●ベスト50

ワイルド・アパッチ(ウルザナズ・レイド) ロバート・アルドリッチ
蓮實いわく『初期の「ヴェラクルス」「アパッチ」よりも、ヨーロッパから帰還した後の自己破壊的なガン・ファイター(ラスト・サンセット)」等に惹かれねばならぬ』とのことでプロとしての諦念が1970年代に頂点に達したアルドリッチ&バート・ランカスターが組んだ作品を選んだそうです。

ギャンブラー ロバート・アルトマン
「MASH(マッシュ)」といったコメディを手掛けるアルトマンは許せず、本作の様な作品を手掛けるアルトマンは許せるそうです。

夕陽の群盗(バッド・カンパニー) ロバート・ベントン
ヌーヴェルヴァーグの影響下にあることを隠すことなく撮られた最初の西部劇』とのことで、ベントンではこの作品を最も評価しているようです。

反撃の銃弾 バッド・ベティカー
「七人の無頼漢」「決闘コマンチ砦」「今は死ぬ時だ」等ではなく何故この作品を挙げたのか。
それは『プレストン・スタージェス的な洒落た原題(「The Tall T」)』だったからだそうな。なんじゃそりゃ。

最後の銃撃 リチャード・ブルックス

天国の門 マイケル・チミノ
『誇り高くも壮大な最後の失敗作』とのこと。
参考にスティーヴン・バック著「ファイナル・カット」もオススメだそうです。

あらくれ五人拳銃 ロジャー・コーマン
『この映画をコッポラ「グラマー西部を荒らす」と二本立てで輸入し再公開する会社はないものか』とのこと。

幌馬車(カバードワゴン) ジェームズ・クルーズ
1923年。ちなみにジョン・フォード「幌馬車(ワゴン・マスター)」は1950年。
クルーズの映画は映画史を重視しただけであって作品そのものはあまり評価していないようです(開拓劇としてはウォルシュ「ビッグ・トレイル」やフォード「アイアン・ホース」等もありますし)。
クルーズによる1925年駅馬車(ポニー・エクスプレス)」も本作も大した作品ではないと言いながら何故選んだのか。
それは『改めてスクリーンで見直したかったから』とのこと。
本作を撮影したカール・ブラウン(K・ブラウン)はかつてグリフィスの元で撮影助手もしており、数々のクルーズ作品を支えることになります。

西部に賭ける恋 ジョージ・キューカー
『何故こんな映画を撮ったのだろう』という興味本位。

カンサス騎兵隊 マイケル・カーティス
カーティスの西部劇はあまり評価していないようで『エロール・フリンの脇に徹したロナルド・リーガン(ロナルド・レーガン)に敬意を表す』とのこと。
撮影のソル・ポリトはロイド・ベーコン「四十二番街」やアーヴィング・ラパー「情熱の航路」等に参加。カーティスを支えたキャメラマンの一人。

決断の3時10分 デルマー・デイヴィス

平原児 セシル・B・デミル
本には1939年「大平原」の題名で載っていますが、説明部分のゲイリー・クーパー&ジーン・アーサー主演のデミル西部劇は1937年「平原児」の方です。
ちなみに「大平原」はジョエル・マクリー&バーバラ・スタンウィック&ブライアン・ドン・レヴィ。
デミルのサイレント時代の西部劇は執筆当時ほとんど見れていなかったそうです。

リオ・コンチョス ゴードン・ダグラス
アンドレ・ド・トスもエドワード・ドミトリクも入れずにこの監督を選んだのは『B級的資質が如何なく発揮され、しかも破滅的な魅力に溢れたこの作品のためにほかならぬ』とのこと。

対決の一瞬 アラン・ドワン
二百本を超えるフィルモグラフィの十分の一も見ていないことを深く恥じ(ドワンのサイレント時代は失われてしまった作品も多い)、あえて晩年の一本を選んだのは『文字通りの「対決の一瞬」のサスペンスにうたれたから』とのこと。
ロナルド・リーガンの演技が印象的。

ペイルライダー クリント・イーストウッド
許されざる者も評価していましたが『あまりの厳粛さに傑作と呼ぶこともためらわれる』とのことで、あえて本作を挙げるそうです。

セントルイス レイ・エンライト
ランドルフ・スコットやジョエル・マクリー主演の西部劇を多数手掛けたエンライト。
撮影はF.W.ムルナウ「最後の人」やフリッツ・ラングメトロポリス等に参加したカール・フロイント。

ホンドー ジョン・ファーロウ(ジョン・V・ファロー)
ジョン・フォードも制作の一部に携わった作品。

スパイクス・ギャング リチャード・フライシャー
フライシャーの西部劇は他に「フォート・ブロックの決斗」等があります。

シャイアン ジョン・フォード
駅馬車」「幌馬車」「捜索者」「リバティ・バランスを射った男」も評価していますが『とても物語を信じられぬこの虚構性にこそ涙しなければならない』とのこと。

四十挺の拳銃 サミュエル・フラー

少女と彼女の関係 デイヴィッド・ワーク・グリフィス(D.W.グリフィス)
あえて「エルダー・ブッシュ峡谷の戦い」を選ばなかったのは『トロッコと機関車との追跡というアクションの単純さに惹かれ』たそうです。

リオ・ロボ ハワード・ホークス
リオ・ブラボー「赤い河」等も評価していますが、蓮實いわく『二十一世紀まで生きのびる唯一の西部劇かもしれない』とのこと。

シューティング(銃撃) モンテ・ヘルマン
「銃撃(シューティング)」

勇者の赤いバッジ(勇者の赤いバッヂ) ジョン・ヒューストン
『ヒューストンが映画作家だった事実を想起させる唯一の作品』とのこと。

ミネソタ大強盗団 フィリップ・カウフマン

白人酋長 バスター・キートン
別題「酋長(白人酋長/ハッタリ酋長/ハッタリ曾長)」

モンタナの西 バート・ケネディ
「ハニー・コルダー(女ガンマン-皆殺しのメロディ)」も忘れられないとのこと。

拳銃王(ガンファイター) ヘンリー・キング
『好みという点でいうなら、わがベストテンのひとつ』とのこと。
脚本にはアンドレ・ド・トスやロジャー・コーマン等が参加。

無頼の谷 フリッツ・ラング

アラモの砦 フランク・ロイド

裸の拍車 アンソニー・マン
「ウィンチェスター銃'73」「怒りの河」等ではなく『天使の視点を撮れる監督など、映画史にはアンソニー・マンくらいしか存在しまい』とのこと。
あと『彼の西部劇にアカデミー賞を与えなかったのは、アメリカ映画史最大の汚点』と怒りを露にしていました。

大脱獄 ジョゼフ・L・マンキーウィッツ(ジョセフ・L・マンキーウィッツ)
『この監督でさえ西部劇を撮っているという事実を記憶にとどめておくために、あえて選んでおく』そうです。

シェナンドー河 アンドリュー・V・マクラグレン
『名優ヴィクター・マクラグレンの愚息』呼ばわりしてまで選ぶ理由とは一体。
撮影がフォードやウェルマン作品で実力を振るったウィリアム・H・クローシアだからでしょうか。

腰抜け二挺拳銃 ノーマン・Z・マクロード
『ジェーン・ラッセル主演の西部劇はハワード・ヒューズ「ならず者」も決して悪くなかった』とのこと

南部に轟く太鼓 ウィリアム・キャメロン・メンジース
美術監督としてウォルシュバグダッドの盗賊」やサム・テイラー「コケット」等数々の作品を支えたメンジース。
製作ではアンソニー・マン秘密指令(恐怖時代)」、監督としてもSF「来るべき世界」等で映画史に名を残しています。
本作のピアノの弦を補強した“音”のユニークさに注目しての選出とのこと。

西部の旅がらす ロバート・パリッシュ
俳優・編集・監督として多岐に渡り活躍したパリッシュ。
特にフォード作品やロッセンの傑作群に編集面で貢献したことは有名。
本作は俳優時代のジョン・カサヴェテス最良の演技を引き出したので選出とのこと。
撮影はルーベン・マムーリアン喝采やフレッド・マクラウド・ウィルコックス「禁断の惑星」等に参加したジョージ・J・フォルシー。
あと仕上げを行ったジョン・スタージェスのことをDisっていました。

昼下りの決斗 サム・ペキンパー
ヘイズ・コードの規制が無くなった時代のワイルドバンチ等も評価していますが、蓮實的にはヘイズ・コード以前におけるスローモーションで死を引き伸ばす前のペキンパーに惹かれるようです。

左ききの拳銃(左きゝの拳銃) アーサー・ペン
この作品もヘイズ・コード以前/以後の分類による選出だと思います。

夕陽に向って走れ エイブラハム・ポロンスキー
1960年代を代表する傑作として評価し、そしてポロンスキーから二十年も映画を撮る機会を奪っていたハリウッドの愚かさについても言及。

帰らざる河 オットー・プレミンジャー
マリリン・モンローの役柄について『ハリウッドが彼女に与えた最良のもの』とのこと。

大砂塵 ニコラス・レイ
『十五歳の少年にはあまりに強烈すぎた(1954年公開当時)』とのこと。

熱砂の戦い アーヴィング・ライス(アーヴィング・レイス)
助監督にロバート・アルドリッチ、撮影はサークヒットラーの狂人」等に参加したジャック・グリーンハル、製作はフィル・カールソンサイレンサーシリーズ等を手掛けたアーヴィング・アレン。

コルドラへの道 ロバート・ロッセン
本にはコロラドへの道」と記載されていましたが正しくは「コルドラへの道(They Came to Cordura)」
ちなみにコロラドへの道 セプテンバーガン(SEPTEMBER GUN)」はドン・テイラー監督によるTV西部劇。

燃える平原児 ドン・シーゲル

アパッチの怒り ダグラス・サーク
『なぜこんな西部劇を撮ってしまったのかと問うか、それとも、サークが西部劇を撮ってくれたことをひたすら祝福するか』とのこと。

日本人の勲章 ジョン・スタージェス
「ブラボー砦の脱出」「六番目の男」といった初期のB級的感覚のスタージェスを評価する蓮實ですが、この作品は『スタージェスの西部劇よりも面白い』と評価。
撮影はウェルマンやアンソニー・マン作品等に参加したウィリアム・C・メラー。

北西への道 キング・ヴィダー
他は「ビリーザ・キッド」「テキサス決死隊」、複数の監督を経て完成された白昼の決闘も良いとのこと。

追跡(パースード) ラオール・ウォルシュ
死の谷等も評価していますが、母親が出てくるこの映画の方を挙げ『ダニエル・シュミットの登場まで、映画における母権製はウォルシュにしか見当たらない』とのこと。

ミズーリ横断 ウィリアム・A・ウェルマン
「オックス・ボウ・インシデント(牛泥棒)」廃墟の群盗等も評価していますが、本作を挙げたのは『クラーク・ゲーブル(クラーク・ゲイブル)までが、ウェルマンにつきあって『上品』に振舞っているからだ』そうです。

友情ある説得 ウィリアム・ワイラー
「大いなる西部」は評価せず、『戸外の風景に触れた』本作の方に惹かれるようです。