●概要
赤狩り(レッド・パージ)とは、ハリウッドの映画史において巨大な汚点とも言うべき事件。第一次世界大戦後からパーマー・レイド、第二次大戦、そして戦後の冷戦時代に苛烈化した赤狩りの嵐。
手っ取り早く知りたい方は「レッドパージ・ハリウッド 赤狩り体制に挑んだブラックリスト映画人列伝」がオススメです。
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かつてB級的感覚による低予算・量産性・優れた脚本やディティールの娯楽映画で観客を唸らせてきたハリウッド・システムの崩壊を招いた原因となり、またそれによってハリウッドから数多くの優れた映画人を追放してしまったのです。
当時のアメリカはただでさえアフリカ系(黒人)やアジア系、日系人、イタリア系移民、アパッチやコマンチといった諸部族出身・血を引く人々に対する人種的偏見が根強かった時代。ユダヤ系にさえ差別的な風当たりが存在していました。
その上「目に見えない恐怖」とやらで魔女狩りのように民衆を煽り立て、疑心暗鬼に陥れ、恐怖で支配し互いが互いを憎み合うように仕向けた。たまったもんじゃありませんよ。
アメリカという国が追放したのは、ハリウッドを支えてきた大きな屋台骨とも言うべき人々でもあったのです。ビッグネームである巨匠から、裏でハリウッドを支えてきた人々まで。
赤狩りによって追放・ないし危険視された映画人たちはキャリアを奪われ殺されたも同然。ある者は国内に留まり耐え抜き、ある者は別の国へ亡命するしかなかった…。
●ハリウッド・ナインティーン(議会侮辱罪として告訴された19人)
・ハリウッド・テン(最初の10人または11人)
「ローマの休日」
戦前から戦場に行った者の帰りを待つ家族を描いたエドワード・ドミトリク「夫は還らず」、戦時下のパイロットを描くヴィクター・フレミング「ジョーと呼ばれた男(ジョーという名の男)」等で活躍していた脚本家。
戦後はフランク・キャプラ「素晴らしき哉、人生!」の共同初稿作業。
歪んだ時代を反映した逃避行が刻まれるジョセフ・H・ルイスのフィルム・ノワール「拳銃魔(ガン・クレイジー)」、石油を巡る対立を描く西部劇「テキサスの死闘」、ジョセフ・ロージーによる姦通と犯罪「不審者」、ウィリアム・ワイラーがフランク・キャプラから引き継いだ身分に縛られた者たちが自由を求める恋愛「ローマの休日」、奴隷たちが自由を求めて戦うスタンリー・キューブリック&カーク・ダグラス「スパルタカス」で復活。トランボの復活は赤狩りの終息が加速する大きなキッカケになっていきます。
アルバート・マルツ
デルマー・デイヴィスによる傷痍軍人と戦争「海兵隊の誇り(誇り高き海兵隊)」、マーヴィン・ルロイによる反ユダヤ主義と宗教的不寛容「私の住む家(The House I Live In)」、アパッチ族を異文明側からの視点で友好的に描いたデイヴィス「折れた矢」、ジュールス・ダッシンによるドキュメンタリータッチの刑事ドラマ「裸の町」等の作家・脚本家。
エイドリアン・スコット
ドミトリク作品のプロデューサー。
「ブロンドの殺人者」「十字砲火」等に参加。
アルヴァ・ベッシー
ラオール・ウォルシュの戦争「北部への追撃」「決死のビルマ戦線」等の脚本家。
リング・ラードナー・ジュニア
「ローラ殺人事件」
殺人事件の謎を追うフィルム・ノワール「ローラ殺人事件」、人種や宗教に対する寛容を描く ロバート・キャノン「人間愛(The Brotherhood of Man)」、反ナチス「外套と短剣」、「裸の町」、後にロバート・アルトマンの朝鮮戦争を皮肉るブラック・コメディ「M★A★S★H(マッシュ)」等に参加したジャーナリスト・脚本家。
ハーバート・ビーバーマン
ナチズム批判「幻影のハーケンクロイツ」等の監督・脚本家・プロデューサー。
レスター・コール
アンドレ・ド・トスによるユダヤ人差別と裁判「誰も逃れることは出来ぬ(None Shall Escape)」、カーティス・バーンハートのフィルム・ノワール「高い壁」、「決死のビルマ戦線」等の脚本。
ジョン・ハワード・ローソン
ゾルタン・コルダ「サハラ戦車隊」や「反撃(Counter-Attack)」等の脚本。
サミュエル・オーニッツ
サミュエル・オーニッツ
ウィリアム・A・ウェルマン「チャイナタウンの夜(Chinatown Night)」等の脚本家。
ゲイル・ソンダーガード
ビーバーマンの妻。ウィリアム・ディターレ「ゾラの生涯」等に出演。
・他8人
リチャード・コリンズ
ノーマン・フォスター&オーソン・ウェルズが制作に関わり第二次大戦を舞台にしたスパイ映画「恐怖への旅」、ドン・シーゲル(ドナルド・シーゲル)の刑務所内における非人道的な扱いを描く「第十一号監房の暴動」、戦争「中国決死行」等の脚本家、プロデューサー。
一説には反ファシズム&人種問題に触れたユナイテッド・ステイツ・デパートメント・ウォー(United States Department of War)制作「だまされるな(Don't Be a Sucker)」にも関わっているらしいです。
ゴードン・カーン
自立した女性を描くスクリューボール・コメディ「フィラデルフィア物語」共同脚本、ジョン・ブラームによる反ナチス「カレー大空襲」、ジャック・ターナーの活劇「怪傑ダルド」等の脚本家。
ヨーロッパ出身のマックス・オフュルスが故郷への想いを綴った「忘れじの面影」、ジョン・ヒューストンによる人種問題と近親相姦の暗示「追憶の女(我が人生において)」、ハワード・ホークスによる対ドイツ「ヨーク軍曹」、反ナチス的レジスタンスものマイケル・カーティス&ドン・シーゲル「カサブランカ」等の脚本に協力。
エイブラハム・ポロンスキー、ロバート・アルドリッチ等と組み活躍した社会派。
脚本家としてマーヴィン・ルロイによる集団ヒステリーとリンチ「彼らは忘れない(They Won't Forget)」、ウォルシュのギャング映画「彼奴は顔役だ!」。
監督としてもボクシング・八百長・ユダヤ人と黒人が対等に描かれる「ボディ・アンド・ソウル」等で活躍。
「猟奇島」「潜行決死隊」等の監督・俳優で知られるユダヤ系。
戦時中に反ナチス「パイド・パイパー」をはじめ多くの戦争映画を発表。戦後はメキシコ系移民を描いた「ベニーの勲章(ベニィの勲章)」等。
ラリー・パークス
アルフレッド・E・グリーン「ジョルスン物語」、ヘンリー・レヴィン「ジョルスン再び歌う」等に出演の俳優。
●ブラックリストに載ったその他31名
オーソン・ウェルズ「市民ケーン」
自由人かつかなりの問題児でもあり、赤狩りの標的に狙われれば狙われるほど挑発的な作品作りに挑み続ける。
「裸の町」をはじめ刑務所を舞台にリンチや密告の恐怖も刻まれたノワール「真昼の暴動」等を監督した社会派。
赤狩りから逃れるべくイギリスやフランスに渡り強盗映画「男の争い」等で活躍。
ウィリアム・ワイラー「女相続人」「デッドエンド」等に参加した女流作家。
メソッド演技法(役柄の内面・感情の追体験によりリアリティ溢れる演技を追求)の先駆者であり、ポロンスキーたちの盟友でもあった存在。
ロッセン「ボディ・アンド・ソウル」、ポロンスキー「悪の力」等に出演。
カナダ・リー
ビリー・ワイルダー「深夜の告白」、フリッツ・ラング「飾窓の女」等で知られる俳優。
シドニー・バックマン
「スミス都へ行く」等の脚本家。
「召使」「銃殺」等の監督。
亡命後はイギリスやフランスで活躍し、偽名を使いカール・フォアマンやハワード・コッチ、ベン・バーズマン等と組んで作品を発表し続ける。
「大いなる別れ」「女囚の掟」等で知られる映画監督・俳優。
「拳銃の報酬」
俳優・歌手・社会活動家として活躍したアフリカ系。
「花はどこへ行った」等の曲で知られるフォークソング歌手。
ロイド・ブリッジス
「幻影のハーケンクロイツ」、ジンネマン「真昼の決闘」等の俳優。
ドミトリクによって映画化された「若き獅子たち」等で知られる作家。
「アメリカの息子」等が映画化された黒人小説の先駆者。
「女相続人」等の音楽を担当した作曲家。
レナ・ホーン(リナ・ホーン)
混血アフリカ系ジャズ歌手・俳優。
リチャード・ウォーフ「雲流るるはてに(雲流るるままに)」やアンドリュー・L・ストーン「ストーミー・ウェザー」等で歌声と演技を披露。
当時は白人至上主義によるキャスト選びの傾向が強く、彼女の出番も黒人というだけでカットされてしまったケースが多かったそうです。
そんなハリウッドのやり方に彼女は抗議すべく、ブラック・リスト上等という具合に様々な運動に積極的に参加。その後はヨーロッパに活動の場を移します。
ジョージ・シートン「ジュニア・ミス(Junior Miss)」等ミュージカルを多数手がけた作家。
サイ・エンドフィールド(シリル・エンドフィールド)
「ズール戦争」等で知られる監督。
イギリスに渡り活躍。
オーソン・ビーン
ジェームズ・ホエール「ショウ・ボート」、ヨリス・イヴェンス「世界の河はひとつの歌をうたう」等に出演したアフリカ系の俳優兼歌手・スポーツ選手・作家・活動家。
ジョセフ・H・ルイス「秘密調査員」等に出演した俳優。
赤狩り後は主にTVドラマ「ベン・ケーシー」等の俳優・監督で活躍。
アート・スミス
「ボディ・アンド・ソウル」、ニコラス・レイ「孤独な場所で」やオフュルス「魅せられて」等に出演した俳優。
フィリップ・ローブ(Philip Loeb)
ジョージ・キューカー「二重生活」等に出演した俳優。
●その他 赤狩りの犠牲者23名
そんなギリギリの板挟み状態で第二次大戦時はナチズム批判「独裁者」、戦後に戦争を風刺したブラック・コメディ「殺人狂時代」が物議をかもし「ライムライト」を最後に追放。
チャップリン、ポロンスキー等の下で助監督として修行を積んだ監督。
バート・ランカスターと組み「ヴェラクルス」を監督。
持ち前の反骨精神を原動力に多くの問題作を発表。
異文明側からの視点を描く「アパッチ」で赤狩りの標的に。その後ヨーロッパで活躍。
召集されなかったものの心理的圧迫を受けて故郷フランスへと戻る。
同じく亡命者であったハンス・アイスラー、フリッツ・ラング等と組み反ナチス「死刑執行人もまた死す」の製作に協力。
ハンス・アイスラー
「死刑執行人もまた死す」やチャップリンの音楽顧問、ルノワールやダグラス・サークの作品にも参加した作曲者。
アルノルト・シェーンベルクの弟子。
国外追放になった後は強制収容所の虐殺が刻まれたアラン・レネ「夜と霧」等の曲を担当。
戦後ウィリアム・ワイラー、ジョージ・スティーヴンス等と共にリバティ・ピクチャーズを設立。
生きることの意義を謳った人間賛歌「素晴らしき哉、人生!」を発表。しかしこの作品が赤狩り運動の人間に目を付けられブラック・リストに載せられてしまい、その影響で映画を撮れない時期が続くことに。
ジョージ・キューカー等と組み戦時下にシェルショックに苦しむ登場人物を描いた「恋の十日間」、エミール・ゾラの伝記「ゾラの生涯」等。
赤狩りに巻き込まれパスポートを没収されてしまう。
「真昼の決闘」「ナバロンの要塞」や「戦場にかける橋」等の共同脚本家。
ジョセフ・ロージー等と共にヨーロッパに逃れ偽名で脚本活動も。
ウォルター・ウェンジャー
ジョン・フォードやラング、ヒッチコックといった多くの作品を手掛けたプロデューサー。
ヒューストンによる強盗団の破滅を描くフィルム・ノワール「アスファルト・ジャングル」、アンソニー・マンによる朝鮮戦争「最前線」、ウィリアム・フォークナーの原作を脚色・クラレンス・ブラウンによる人種差別問題が絡む殺人「墓地への侵入者」等の脚本家。
キム・ハンター
エリア・カザン「欲望という名の電車」等に出演した女優。
復帰後ロッセン「リリス」等に出演。
彼はそれに反抗する様にアンソニー・マンによるショショニ族側の視点で民族浄化の異常性を描く西部劇「流血の谷」に出演。
ベン・バーズマン
ダッシン「宿命」やロージー「緑色の髪の少年」等を手掛けた脚本家。
アン・リヴィア
クラレンス・ブラウン「絶縁の天使」、カザン「紳士協定」等に出演した女優。
ウォルター・バーンスタイン
ハリウッドを追われた後にTVシリーズ「ユー・アー・ゼア」に参加した脚本家。
アーノルド・マノフ
バーンスタイン、ポロンスキー等と「ユー・アー・ゼア」の制作に参加。
J・エドワード・ブロンバーグ
ヘンリー・キング「地獄への道」、フラー「地獄への挑戦」等に出演。
ジェームズ・ケビン・マクギネス
脚本家。
仕事を干されいたところをジョン・フォードによるアパッチと騎兵隊が平等に描かれる戦争西部劇「リオ・グランデの砦」で採用され復帰。
50年代を棒に振り、復帰後はサム・ペキンパー等と組んだ音楽家。
ヒューゴ・バトラー
ルノワール「南部の人」等を手掛けた脚本家。後にジョージ・ペッパーと共に偽名でルイス・ブニュエル、アルドリッチ、ロージー等と組む。