「結婚行進曲」-エリッヒ・フォン・シュトロハイムの大傑作

結婚行進曲
The Wedding March

英題は「The Wedding March」または「The Honeymoon(IMDbでは何故かこの題名で登録)

シュトロハイムグロリア・スワンソンと組んだ「メリィ・ウィドウ」「クイーン・ケリー」「グリード」と数々の傑作がありますが、その中で最高の1本を選ぶならコレです。

本来なら「グリード」を挙げるべきですが、失われた4時間の完全版こそ「グリード」であり、現存するものは「グリード」であってシュトロハイム「グリード」ではないかと(モチロン充分すぎるほどの傑作ではありますが)。
そんなワケで、個人的にシュトロハイムの一番好きな映画を挙げておきます。

「愚なる妻」のコメディタッチ版とも言えるこの作品は、シュトロハイムらしい壮大さと、彼らしくない結末で締めくくられる。逆に言えば、そのらしくない終わり方を私は気に入っています。こういうのもありだなと。らしくないと言っても、巨大な黒い影が不吉な未来を暗示するかのような締めくくりではありますが。

塔が霞むほど強い光をとらえるショット、自ら騎士の甲冑に身を包むシュトロハイムの騎士道精神。
いつも通りシュトロハイムは好色な貴族として登場しますが、今回は若く純真な様子も覗かせます。

空中から映される市街と人の群れ、群れ、群れ。教会を行進する人々の群れを捉えた優美なショット。その部分だけテクニカラーのフィルムとなります。


また、この映画は“指”も象徴的に映されます。
娘を物色する指、嫉妬で往復ビンタを喰らわす女の手の指、結婚が決まり期待と不安で胸を膨らます心理を表す指、指、指。

警備隊長として法王の護衛。
美しい平民の娘に心を奪われるシュトロハイム。零落の限りを尽くす男は何人もの女性と関係を持つ。部屋に散乱した女の服が、昨夜の情事を物語る。メイドに手をだそうとするのは最早お約束。

今回、美しいヒロインを演じるのはフェイ・レイ。まさか彼女がキングコングで叫びまくる女性を演じようとは誰が思わなんだ。劇中でも、サイレントとはいえ彼女の悲痛な叫びが聞こえてきそうなシーンばかり。
わざと事故を起こし彼女を病院に連れ込み、キッカケを作ってしまう周到振り。猛犬を餌付けで買収するなど手馴れたもの。肉屋の男と花をめぐるやり取りは爆笑。

月夜の晩に花が咲き誇る広場のなんと幻想的で美しい事。

夜這いに来た“騎士”を見てあわてて他の男の服を隠すシーン。
彼らを振り回す将軍や貴族たちは狂乱騒ぎ。

二人の男の間で苦しむ娘は、激しく流れる川の向こうにガチムチの黒い化身の幻影を目撃する。
まるで彼女たちの運命を嘲笑うかのように、甲冑に身を包み彼女そっくりな女性を腕に抱えて去っていく黒い体躯の影、鉄の様な化身。その姿は彼女にしか見えない。

シュトロハイムも、金目当ての政略結婚は嫌なようです。結婚相手くらい自分で選びたい。
美しきその娘もまた、昔からの知り合いである肉屋の男が度々ちょっかいを出してくる。無理矢理キスするものならツバを吐かれる始末。ただ、次第に粗暴ながら自分の事を思う肉屋に心を動かされかけます。

ラストの雨が降りしきる中での結婚式。
短いショットの連続で緊張を高め、祝福と殺意が飛び交う会場。ピアノを弾く手が死神のような白骨に変わる。
シュトロハイムは自らの運命を受け入れ、娘もまた身を引く潔さ。
でも、涙は嘘をつけない。暴力的だった肉屋の男も、ようやく優しく彼女を励まし、支えていく決意を固める。

冒頭のシュトロハイム扮する騎士は、幻想に出て来た黒い化身に代わり幕を閉じる。不気味に嘲笑うこの化身は、一体何者なのか。彼らの運命を操り弄ぶ悪魔なのか。それとも・・・。