「ブロンコ・ビリーの復活」-ジョン・カーペンターが関わった作品


 ブロンコ・ビリーの復活
The Resurrection of Broncho Billy

西部劇の世界に憧れる若者の何処かノスタルジックな一時を描いた現代劇です。
ジム・コロスが監督、学生時代のジョン・カーペンターが編集と音楽を担当したこの作品はアカデミー賞の短編部門で受賞しています。

1970年に撮られたこの30分の短編は、前半は白黒・終盤はカラーのフィルムで撮影されています。
後にカーペンターはリオ・ブラボーの現代劇とも言える要塞警察ゼイリブといった西部劇テイストの作品を撮っていますが、決定的に違うのはこの作品で銃撃戦が一切描かれないという事。
銃撃戦は描かれないのですが、主人公が行く先々で銃撃戦でもはじめそうな雰囲気がところどころに漂っているのです。

冒頭は主人公が自分の部屋で目覚める場面から始まる。
大列車強盗ジョン・ウェインをはじめとするポスターが何枚も貼られた部屋で、主人公は西部劇風のコスプレ?で身を固めます。帽子には拘らず、カウボーイブーツ(踵に拍車が付いた靴)ではなく普通の靴というのがちょっと現代的。行動や仕草で西部劇の真似をしますが、銃は持っていません。また、代わりになるようなナイフも持たない。

家を出た主人公は、毎日西部劇のカウボーイ風の格好と仕草で街をブラブラうろついているようです。
親しい老人からブロンコ・ビリーの伝説を聞いたりして。老人の話は西部劇によくあるシーンを切り取ったイラスト付きで語られる。主人公は老人から大切な時計を貰い受けます。

バーに入りカウボーイの真似事で酒を注文する場面。日中にも関わらずやけに暗い酒場です。ジョッキがカウンターから流れてくるのはお約束ですね。

横断歩道で待つ場面はまるでガンマンのよう。向こうで信号を待つサラリーマン?は、さしずめ彼の命を狙うアウトローといったところでしょうか。すれ違うだけの場面をやけに緊張漲る演出で描いています。すれ違い、お互いの背中が向き合った瞬間に銃撃戦でもはじまりそうな雰囲気。
サラリーマンのおじさんが「何だコイツ」とでも言いたげな微妙な表情で主人公に痛い視線を送ります。

バーを出た路地裏。薄暗く狭い道のアスファルト・ジャングルは、西部開拓時代の世界には無い光景です。
一人で路地裏を歩くシーンは敵が奇襲を仕掛けてきそうな雰囲気。
ま、この映画はかなり平和な方です。暴漢が銃を抜いて襲ってくるなんて事はありません。せいぜい二人組にカツアゲされるくらいです。
銃の発砲音のように響く音、金目のものを奪われゴミ箱に叩き付けられる主人公。格好だけで人間強くなりません。貰い受けた大事な時計も奪われ、己の無力さを痛感する。こういう現実に戻されるシーンはどんな映画でも強烈ですよね。
この前年に、カウボーイ姿の若者が夢を抱きそれを砕かれていく「真夜中のカウボーイ(真夜中のカーボーイ)」という映画もありましたが、本作もその影響を感じさせます。

再び歩きはじめた主人公は、今度は女性に声をかけていきます。
売店の髪を結んだ少女はインディアンのイメージ?
森の中でバッタリ出会った美少女と意気投合。かと思いきや、止まらない主人公のマニアックすぎる語りに嫌気がさして逃げていってしまいます。

主人公は、出会った少女の姿を自分が描くカウボーイの世界に映し出します。
この時、フィルムはカラーとなる。印象的です。彼の思い描く理想のカウボーイはチャールズ・ブロンソンでしょうか。ブロンソンみたいな険しい顔付きで少女を馬に乗せて駆けていく。夢の世界で戻って来た時計。想い人と失われた物をもう一度取り戻したいという理想・願望。夢の中の彼は無限の草原を駆けていきますが、現実の彼は次に進めたのでしょうか。それは解りません。