「忠次旅日記(忠治旅日記)」-幻の戦前日本映画最高傑作

忠次旅日記(忠治旅日記)
 
「忠次旅日記(忠治旅日記)」は第一部甲州殺陣篇」は1分、
第二部「信州血笑篇」と第三部「御用篇」を合わせた107分(1時間47分)現存。版によって1時間14分、1時間34分のver.もあり(2020年7月18日)

拝めるとはいえ細かい箇所が欠損しており、ストーリーの繋がりがやや分り難くなってしまっています。
それでも、大河内傳次郎の鬼気迫る演技を含め必見の映画であることに変わりはありません。

例えば大河内傳次郎 乱斗場面集(大河内傳次郎 剣戟名場面)」等に収録された断片の編み笠を被り道を駆け抜ける忠次、それを猛然と追いかける御用提灯の津波津波津波
敵を流し目で睨みつけ、橋の上で捕り手たちの群れに猛然と突っ込み袈裟でブッタ斬る!
刃を突き付け周囲を睨みつけ、取り囲む捕り手たちをくるりと回って瞬く間に3人を薙ぎ払う上空から見下ろす俯瞰の視点。
この俯瞰の視点は同じ伊藤大輔&大河内「血煙高田の馬場」の断片で猛然と決闘場に向かうシーンでも拝む事が出来ます。
また場面は変わり密室で子供を背負いながら激しく切り結び、振り向きざまの眼光、闇夜に連なる御用提灯の灯。
「信州血笑篇」「御用篇」を合わせたver.にも残る街中で複数の男たちと高速で斬り結び、斬られたのか力なく壁に寄りかかり倒れる仲間、それを見やりながら敵中を突破しようとして太刀をゆっくりと傾け構える男。
 
「信州血笑篇」冒頭と思われる白い登場人物のクレジットが上へ、暗闇のように拡がる黒い画面に消えていく。その上には闇を照らすように御用提灯が連なる。
上から斜め左に走り去る捕り手、それを瞬く間に一人切り伏せる男の姿を上から捉える。
男は敵から奪った提灯(切り裂かれ残り火がまとわりつく)で斬り倒したであろう敵の生死を確認、倒れた捕り手は直接写されない。
確認を終え振り払った刃を腰に収め、羽織をまとい、頭巾を被り暗闇に消えていく。忠次の鮮烈な登場。
中盤の蔵の中に消える恋の終わり、絶望を怒りに変え鞘を脇に抜き放つ刃!
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片手による立ち回りは後の「新版大岡政談」で同じ大河内傳次郎が演じる丹下左膳を予告する。
捕り手をかわしながら一人また一人斬り倒し亡骸が増えていく。
そんな剣客としても強者だった忠次が、大部分が残る「御用篇」で病によって徐々に立ち上がる事もできないほど衰弱していく姿。

行く先々で目にする子供たちの輪。忠次に郷愁の念を抱かせ、気を狂わせる回転。山彦に怒り散らし、農夫を子供と間違える狂気と孤独。
裏切り者を炙り出すための幹部会議、仲間たちの怒号が交互に叩きつけられる。
着物からピストルを抜き裏切り者を一撃で葬る姉御がカッコイイ。重ね着をし、一々上着を脱ぐような様が色っぽい。
彼を慕って最後の最後まで付き従ってくれる仲間たち。
捕り手たちから忠次を守ろうと奮戦し、泥と血にまみれながら次々と捕縛されていく。

 扉をこじ開けて雪崩れ込む捕り手、それを睨みつけ、懐の鉄砲をぬうっと突き付けて最後の抵抗を示す女の眼差し。
忠次は最後の力を振り絞って抜刀して戦うのか、それとも…とクライマックスまで息もつかせぬ怒涛のシーンの連続なのです。


忠次を献身的に支えた“女”たちの生き様もしっかり刻まれています。
特に忠次の妾もとい組の姉御お品を演じる伏見直江の凄味!