ヴィクトル・シェストレム「風」-メロドラマ×西部劇×ホラー

The Wind

ヴィクトル・シェストレムとリリアン・ギッシュが組んだ伝説的な作品。
リリアン・ギッシュにとっても、D.W.グリフィスの諸作品やキング・ヴィダー等の作品を含めた最高傑作の1本ではないでしょうか。この作品のリリアン・ギッシュはとにかく、可愛いく、美しく、怖い。
 
※以下、激しいネタバレ
 
この作品はですね、「飾窓の女のような悪夢的な映画です。いえ、この作品のラストは夢だったのか現実だったのか・・・と後を引くものがありましたね。
砂嵐が巻き起こす幻想的な光景、その風によって神経をすり減らしていく女性の恐怖を描いたホラーテイストも味わえる作品です。
ヒロインに幻影を見せる風を吹かせている“白い馬”の伝説。この作品はいたるところに馬が出てきます。

シェストレムは「霊魂の消滅」といったホラー色の強い作品も手掛けていますからね。ホラーとサスペンスが合わさった作品ほど怖い映画はありません。悪魔のような女しかり、羊たちの沈黙しかりしかり。
 
列車からはじまるファーストシーン。外は猛烈な風が吹き荒れ、ちょっとでも窓を開けようものなら風がビュッーと砂を撒き散らして人々に襲い掛かるという状況。
レティ(リリアン・ギッシュ)が窓を開けてしまい風が入り込み、その音で紳士ぶった伊達男のロディが助けに入る。ここがレティと“悪夢”の出会いのシーンです。
レティを迎えに来た兄のビバリーとお爺さん。このお爺さんのキャラが良いですね。巻き煙草ではなく葉巻。パン屑を虫?に変えるシーンなんか酷い。つうかこのじいさん銃抜きすぎです(笑)
 
生まれ故郷であるヴァージニアから列車で旅をするレティ。彼女は兄の従兄のビバリーを頼ってテキサスにやって来ます。ところがビバリーの住むテキサスは冒頭でも述べたように御覧の有様。オマケに妹のレティの美貌にビバリーの妻であるコーラは嫉妬の念を抱きます。
決定的だったのが、奥さんが牛の解体をする傍ら、レティとコーラの子供たちはとても仲良く遊んでいます。
「あたしがこんな仕事をやっているって時に、この女は・・・!」とでも言いたげな表情。だからってそんな血まみれの手じゃ子供じゃなくたってビビりますよ・・・。

ドロシー・カミングの凄味!
ダンスパーティーのシーンも凄いですよ。レティを誘惑するロディの再登場と誘惑、コーラの嫉妬の爆発、そこにサイクロン(竜巻)まで来るんですから。避難所が常設されている辺り頻繁に来るのでしょうね。未だにハリケーンの被害はアメリカでは跡を絶ちません。けれど、西部劇で竜巻に襲われる作品て貴重ですよね。女子供、老人を避難させバリケードを築く男たちがカッコイイ。幸いな事に竜巻で被害は出ませんでしたが、レティには様々な“嵐”が襲い掛かってきます・・・。レティが悩む度に画面に映される“風”・・・。
 
レティはコーラの虐めに耐えかねて家を出ます。そして何を思ったか、近くに住む荒くれ者のカーボーイである
ライジと婚約します。ライジは喜んでレティを受け入れますが、レティはまだライジに心を許す覚悟をしていなかったのです。
コーヒーがマズいからじゃない、ただ怖いのでしょう。
故郷のヴァージニアを離れ、見知らぬ土地で苦しむ。ホームシックでしょうか。衣服を脱ごうとするレティ、ライジは既に夫になっているので遠慮はしませんが、レティはまだ恥ずかし気な様子・・・いや、もうちょっと遠慮しろよライジ。抱きしめる時もちゃっかり胸に腕を回してますし(終盤)。
ライジは不器用ながらもレティの夫になろうと努力しますが、心が中々通じない事に苛立ちを募らせます。レティもまた、吹き止まない砂嵐で徐々に神経をすり減らしていくのです。
二人の足だけ映され、会話も何もない。二人の心が通じ合わず距離が開いた様子を“足”だけで伝えるこの演出。
それでも、ライジはレティを愛してしまった。ライジはレティをヴァージニアに還すための金を稼ごうと、仲間と共に大平原に飛び出していきます。馬を求め、レティを独り家に残して。

独り残されたレティは、太陽が照りつける熱さ、砂嵐に怯えてどんどん神経がおかしくなっていきます。めまいがし、激しい風で家が揺れ、窓ガラスが割れ、その衝撃でランプが倒れて火が付く!火の熱か音か、レティは正気に戻って慌てて火を消す。もう彼女の精神状態はかなりヤバいです。そのシーンの怖さといったら。
 
そんな時に再びレティの前に姿を現す、衰弱したロディ。それを運んできたのは兄のビバリーとお爺さんでした。ビバリーもお爺さんも去ってしまい、回復したロディはレティを再び誘惑、襲い掛かります。レティは相次ぐ風、幻影、好色漢のショックで気を失ってしまいます・・・。
 
翌朝。
嵐は去りますが、風は依然強いまま。レティは昨夜の出来事を思い出し、去ろうとするロディに向って・・・。
 
ここからが怖いですよ。埋めた筈のあの男が、風によって “砂の中”から顔を出す瞬間・・・ゾッとする場面です。男が扉を開け、レティに向う・・・。

 
いやあ本当に凄い映画でした。物語はハッピーエンドでしたが、本当にこれで終わったのだろうかという感じです。