映画史的に重要な作品50本-アクションの系譜

●概要

ここに挙げるのは、映画というジャンルが生まれてから今日まで重要なアクション(運動)を刻んできた作品の一部です。
モチロンこれらが必ずしも監督たちの最高傑作に当て嵌るとは限らないし、今見ればたいして衝撃を受けない作品もあるでしょう。
しかし、今の時代に生まれた私たちが衝撃を受けた作品があるように、50本と同じ時代に生まれた人達もまた、私たちと変わらぬ衝撃を受けてきたのです。
オススメ本はスティーヴン・ジェイ シュナイダーの2004年版「死ぬまでに観たい映画1001本」ですが「1000本も見れない」という人のためのまずは50本。
改定前

●サイレント(短編) 5本 

ラ・シオタ駅への列車の到着 ルイ・リュミエール
L'arrivee d'un train en gare de La Ciotat
煙を吹き出す機関車が駅のホームに、それを待ちわびた人々が一斉に列車に乗り込む瞬間。
最初のスリラー的な恐怖と興奮を持った映画であり、最初の“記録(ドキュメンタリー)”はルノワール「トニ」を経て後のネオレアリズモへと繋がる。
ルイ・ル・プランスに続き当時のフランスの風景を記録した兄オーギュスト&弟ルイ・リュミエール。
彼らはコメディ、逆再生、スローモーション、水に濡れた衣服が肌に張り付くエロティシズム等の実験的な演出をいち早く取り入れた人間でもありました。
他の作品については「レ・フィルム・リュミエール DVD-BOX」がオススメ。
またサイレント映画未経験の方にも(マーティン・スコセッシたちがそうであったように)短編から見ていき慣れて頂ければ幸いです。

月世界旅行 ジョルジュ・メリエス
Le Voyage dans la Lune
運動の連続によって映画を初めて物語(ストーリー)として残したメリエスは、SF~ファンタジーと幅広いジャンルのパイオニアに。
本作は自らカラー化も手掛けた最初期の作品。
被写体に徐々に迫り、人間のような顔をした月面に宇宙船がめり込み顔が歪む未知との遭遇。剣や棍棒ではなく、雨風を防ぐはずの傘を振り回し地元住民を木っ端微塵にしてしまう。
「舞踏会の後のシャワー」で衣服を一枚一枚脱いでいくエロティックなスリルは、本作のスカートや短パンから長く伸びる太腿にまで抑制される。

アメリカ消防士の生活 エドウィン・S・ポーター
Life of an American Fireman
今まで真正面に固定されていた映像の中に、別の場所で火災が起こる瞬間が突然現れる。
何かを待ち続けるように椅子に座していた男たちは駆け出し、火災に駆けつける人々と消防車群の移動、得体の知れない密室に飛び込む行動によって彼等が何者なのかを観客に伝える。
家を包み込む煙は、後に大列車強盗を行うギャングたちの銃から吐き出され人々を薙ぎ倒す。
アメリカ映画の父となったポーター、それに学んだグリフィスは映画を短編から長編へと発展させていく。
「レアビット狂の夢」「窃盗狂」、後のビリー・ワイルダー「七年目の浮気」マリリン・モンローのスカートをめくり上げる風「ニューヨーク23番通りで何が起こったか」等。

キーストン・コップス マック・セネット
Keystone Kops
グリフィスが「ニューヨークの帽子」「正直者」によってコメディ映画のパイオニアになったように、セネットはドタバタ喜劇スラップスティック・コメディを誕生させる。
警官隊は画面中を縦横無尽に駆け抜け増殖を続け、サイレント映画の早回しを逆手に取った猛スピードで動き回る。
標的を執拗に追いかけては転倒しまくり次々と川に投げ出され、時に集団が狭い部屋に押し込まれパニックを引き起こし、女性たちは水着美女となって観客を魅了する。
この中からグロリア・スワンソン、メイベル・ノーマンド、ロスコー・アーバックル、チャールズ・チャップリン、バスター・キートン等が発掘され伸し上がっていく。
作品はチャップリン出演「醜女の深情け」「ベニスにおけるベビーカー競争」等がオススメ。

アンダルシアの犬 ルイス・ブニュエル/サルバドール・ダリ
Un Chien Andalou
見る者に様々な解釈をめぐらせるシュルレアリスムの世界。
フランスの女性監督ジェルメーヌ・デュラック「貝殻と僧侶」、ブニュエルはダリと組み「アンダルシアの犬」を撮る。
犯罪の狂気を悪夢めいた映像の連続で叩きつけ、眼球を切り裂き血を噴出し、胸を揉みしだき、口から血を流し、ロバはピアノの上で死体となり、突如発砲したりカオスの連続。
戦艦ポチョムキン等で腐敗の進んだ肉に蛆がたかる光景は映画のリアリズムを象徴する瞬間だったが、そこに「アンダルシアの犬」で手足に虫をたからせ現実と超現実の境は一気に曖昧となる。
トーキー初期「黄金時代」は欲望に憑りつかれた男が散々暴れまくり、サソリもネズミも喰らい合い、山賊も聖職者たちもくたばり果て、キリスト教は死に絶え骸骨と化す。
「ナサリン」「ビリディアナ」「皆殺しの天使」「忘れられた人々」等。
ダリのシュルレアリスムはヒッチコック「白い恐怖」によって再び蘇る。
●サイレント(長編) 10本
國民の創生 D.W.グリフィス
The Birth of a Nation
「女の叫び」「少女と彼女の信頼」のトロッコによる追跡が進化を遂げる。
人を愛することは運動を生み、時として殺人が引き起こされる。
キャメラは様々な方向から運動を捉え、人々が入り乱れる戦場、劇場で殺し屋が駆け出す躍動。
群衆に取り囲まれる小屋、人馬一体となった騎兵が大地を駆け抜ける映像が交互に叩き付けられる。
dvdは国民の創生 グリフィス短編集 クリティカル・エディション」がオススメ。
「嵐の孤児」「東への道」「散り行く花」「イントレランス等。
戦争の煙が吹き荒れる激突はヴィダービッグ・パレードやウォルシュ「栄光」の軍隊の突撃、ウェルマン「つばさ」の航空戦、エイゼンシュテイン戦艦ポチョムキンの革命と階段によるアクションへ。
グリフィスの下で学んだフォードやウォルシュ、シュトロハイム、セネットといった人間もまた映画史を築いていく事になり、映画の完成はゴダールによって破壊・再構築される。

レ・ヴァンピール(ドラルー/吸血ギャング団) ルイ・フイヤード
Les Vampires
TVドラマ等の原点になった連続活劇を代表する作品の一つ。
壁やパイプを這うように上り下りし、煙突や井戸から入る隠し通路、屋根伝いに動き続ける犯罪までの過程。
3話目から登場し、6話目にして黒衣に身を包み犯罪組織を束ね、男たちを破滅へと誘う悪女の存在。
「ジュデックス」「ファントマ等。

極北のナヌーク(極北の怪異) ロバート・フラハティ(ロバート・J・フラハティ)
Nanook of the North
極寒の地を生き抜くイヌイットたちの生活を記録したドキュメンタリー。
カヤックから飛び出してくる夥しい人々と犬、命懸けの狩り、その場で獲物の血肉に喰らい付くたくましさ。
標的をひたすら待ち続ける肉体、ナイフを突き立て、杜を構える瞬間の躍動。今もこの映画の中に彼らは生き続けているのです。
被写体と共に暮らし、共に生きた記録から作品を作り上げていく過程はヨリス・イヴェンスや亀井文夫小川紳介など今尚受け継がれ続ける。
フラハティは後にムルナウと組んで南太平洋のタブウに触れる。

吸血鬼ノスフェラトゥ F.W.ムルナウ
Nosferatu – Eine Symphonie des Grauens
ホラー映画の始祖がメリエス「悪魔の館」だとすれば、この作品は一つの完成系。
森の古城から黒い影が徐々に、船に乗り海を越えて人々が密集する街に迫る。
夥しい棺桶・花束を貰った人々の衰弱が死の恐怖を語る。
ベンヤミン・クリステンセン「魔女」に学んだドライヤーは、ムルナウとは違う恐怖を「吸血鬼(ヴァンパイア)」で影の中に刻む。吸血鬼の来訪はペストの伝染であり、疫病の到来はベルイマン「第七の封印」で再び間接的に描かれる。
サンライズ」「ファウスト」「最後の人」等。

バグダッドの盗賊 ラオール・ウォルシュ
The Thief of Bagdad
「リジェネレーション」で長編として初めてストリートギャングを描いたウォルシュ。
本作は人種を超えてめぐり会う冒険活劇の興奮、人間が蟻に見えるほど壮大かつ幻想的なアラビアン・ナイトの世界。
人々は市街地を駆け巡り、絨毯で空を飛びかい、巨大な壁を魔法のロープでよじのぼり、洞窟を突き進み、火の柱やドラゴンといったモンスターを次々に薙ぎ倒す。
ダグラス・フェアバンクスの鍛え上げられた肉体によるアクロバティックな動き。
「白熱」「彼奴は顔役だ!」「鉄腕ジム」「いちごブロンド」等。
フェアバンクスは
他にアラン・ドワン「鉄仮面」やフレッド・ニブロ「奇傑ゾロ」といった剣劇映画もオススメ。

グリード エリッヒ・フォン・シュトロハイム
Greed
貴族趣味的壮大なスケールで描かれた「愚なる妻」に対し、本作はクライマックスの直前まで徹底的に抑圧し、人間の欲望を剥き出しにしていく。
人々はたった一枚の紙切れ、夥しい金貨の山によって堕落し、息苦しい家の中から逃げ出すように広大な砂漠へ飛び出し殺し合う。
部屋を覆う黒い影が物語る殺意・金貨が一枚一枚落ち、デス・バレーの荒涼とした砂と照りつける日差し。
後にシュトロハイムはルノワール大いなる幻影やワイルダーサンセット大通り」「熱砂の秘密」等で俳優としても異彩を放ち続けます。
「結婚行進曲」「メリイ・ウィドウ」「クイン・ケリー」等。

戦艦ポチョムキン セルゲイ・エイゼンシュテイン
Броненосец «Потёмкин»/BRONENOSETS POTEMKIN
蛆がたかる肉塊が煽る不安は、理不尽な銃殺刑に対する群衆の流動によって爆発する。
軍隊は整然とした行進で津波のように押し寄せ、機械のように猛烈な煙を浴びせ続ける。
パニックになった人々は次々に薙ぎ払われ、顔は血にまみれ、乳母車の行方は誰も知らない。旗は風にたなびき甲板に溢れかえる兵士たちを歓迎する。

メトロポリス フリッツ・ラング
Metropolis
力強い機械の描写が人々を狂気に駆り立てるSFノワールの源流。
いや映画においてSFは人々が顔を見合わせ、追跡、殺し合う活劇を彩る装置に過ぎないのかも知れません。
地上を埋め尽くす超高層建物群の壮厳さ、地下で蟻のように重労働を強制される人々の秩序は意思を持った機械人間によって崩壊する。
民衆は踊り狂い、工場は猛烈な煙を吐き出して破壊され、地下には大量の水が押し寄せすべてを飲み込む。機械に命を吹き込み街を駆け巡る光の洪水、扉の先に待つ希望。

群衆 キング・ヴィダー
The Crowd
ひたすら群を撮り続けたヴィダーの代表作の一つ。
そびえ立つ摩天楼、窓、机へ吸い込まれるように近づいていくキャメラ
絶え間なく行き交う人々から選ばれた被写体が、再び無数の群の中に消えていく光景はアパートの鍵貸しますでも繰り返される。
ラ・ボエーム」「摩天楼」「白昼の決闘等。

裁かるゝジャンヌ(裁かるるジャンヌ) カール・テオドア・ドライヤー
La Passion de Jeanne d'Arc
英雄ではなく真実の人間像を描こうとした歴史・裁判劇。
神の否定と共にルドルフ・マテの極端なクローズ・アップで時空間まで歪め、恐怖に怯える一人の女性の瞳、流される涙、彼女を取り囲む人々の顔、顔、顔。
切り取られ地べたに積まれるように落ちていく髪、抱えさせられる十字架の重み、燃え盛る火と怒りに支配された群衆、機械のように人々を撲殺していく兵士。
後にブレッソンはジャンヌ・ダルク裁判において鎖に繋がれた手足、ジャンヌとその母親の声を響かせる。
●トーキー以降(第二次世界大戦以前) 10本
地獄の天使 ハワード・ヒューズ/ジェームズ・ホエール
Hell's Angels
「つばさ」で航空戦の迫力を改めて味わった映画人は、破壊音が響き渡る時代に雲間から出現する飛行船のスケールを見せつける。
徐々に迫り不気味に動き続ける空の要塞、高速で飛び交う無数の戦闘機は爆炎に包まれる。
飛行船を動かす巨大な内部装置が焼き尽くされる光景は、稲光を奔らせフランケンシュタインを生み出す装置の恐怖へと移り変わっていく。
「レ・ヴァンピール」ミュジドラといった悪女、「つばさ」クララ・ボウの健康的な性的魅力、ジーン・ハーロウは豊満な肉体で観客の視線を再び脚から胸に引き上げる。

M(エム) フリッツ・ラング
M – Eine Stadt sucht einen Mörder
フィルム・ノワールの誕生に影響を与えたサイコ・スリラー。
人々の目が離れている間に行われる猟奇殺人、迫りくる黒い影、浮かんでいく風船が語る死。
標的にマークが刻まれ、鏡に映る姿に驚愕し、ドクトル・マブゼから続く追う者と追われる者の単純な運動が繰り返され加速していく。走り回った人々が裁判所に押し込められ、怒号と嘆きが支配する空間の狂気。
ドクトル・マブゼの遺言(怪人マブゼ博士)」「ビッグ・ヒート-復讐は俺にまかせろ」「激怒」「スカーレット・ストリート」「飾窓の女等。

暗黒街の顔役(スカーフェイス) ハワード・ホークス
Scarface
アメリカでヘイズ・コード(映画製作倫理規定)が確立されるまで数々の犯罪映画が法の穴をすり抜けるように量産されましたが、その頂点を極めたギャング映画。
トーキーの到来とともにスクリーンに響き渡る銃声、絶叫、ガラスや車が砕け散り衣服が破かれる瞬間の破壊といった音の数々。
しかしこの映画にとって音は、殺し屋の来訪や死体の山を築く黒い影を彩る添え物にしか過ぎないのです。
物は投げられまくり次の運動を生み、繰り返されるコインの回転と光の点滅。煙は猛烈に吐き出されカレンダーをめくり、人々を薙ぎ払い、住居を吹き飛ばし、扉を開いて階段を降りさせ、仮初の家族(組織)を崩壊させる。
教授と美女」「ハタリ!」「ヒズ・ガール・フライデー」「三つ数えろ等。

或る夜の出来事 フランク・キャプラ
It Happened One Night
ヘイズ・コードの影響によって性描写が規制され、代わりに男女二人が結ばれるまでを面白おかしく描いたセックス・コメディが主流となります。
裸体が封印されようと、代わりに太ももまでめくられる脚やエロティックな影の演出でより際どい表現を追求していく。
船という密室で暴れまわり海原に脱出し、カーテンや影が暗示する情事、ヘリが降りれば女は車を走らせる。
毒薬と老嬢」「素晴らしき哉、人生!」「オペラハット」「スミス都へ行く等。

意志の勝利 レニ・リーフェンシュタール
Triumph des Willens
G.W.パプストと組んだ「死の銀嶺」等、山岳映画で人々を魅了したリーフェンシュタール。
その無垢な映像をプロパガンダに利用したのがナチスのアドルフ・ヒトラーでした。
キャメラは雲をかき分けるように市街地へ降りていき、やがて捉えられる民衆と軍隊は広場を埋め尽くし狂ったように右手を掲げまくり、蠢く鉄兜の不気味さは戦争の恐怖を語る。独裁国家の熱狂が支配する光景はスター・ウォーズといった作品群でも蘇る。
オリンピア」「青の光」等。

三十九夜 アルフレッド・ヒッチコック
The 39 Steps
北北西に進路を取れに至る巻き込まれ型スパイ映画の原点。
群衆に飲み込まれる殺人と犯人、列車で扉から扉を伝って追跡を振り切る移動、車中と車外に自由に近づき被写体を追い続けるキャメラ、逃げようにも手錠によって失われる逃げ道、二人の男女の距離を縮める就寝前の共同作業、脚の艶めかしさ。
「ダイヤルMを廻せ!」「裏窓」「レベッカ」「めまい」等。

男の敵 ジョン・フォード/ロバート・ワイズ
The Informer
ヒッチコック「下宿人」の霧の中で殺人が起きたように、霧が拡がる空間は犯罪を包み隠す密室となる。
霧を切り裂くように動き続ける密告者の黒い影、光線、警官隊が押し寄せドアを破壊し、階段や窓を超えた先で待ち受ける閃光。
ドアが開けられた瞬間に殴りつけ、下から救い上げ投げ飛ばされる命。

駅馬車 ジョン・フォード
Stagecoach
西部劇はポーターによって娯楽、ジェームズ・クルーズ「幌馬車(カバードワゴン)」とフォード「アイアン・ホース」で歴史劇、駅馬車によって神話となる。
爆走する馬車を並走する者の視点から撮った驚異的な速度。
馬のスピードを真に引き出せたのはフォードとボリス・バルネット「騎手物語(オールド・ジョッキー)」だけなのです。
人々が目的のために移動し続ける旅の物語と西部劇は戦後「超西部劇」へと進化し、テクニカラーが際立つ「七人の無頼漢」「捜索者」で頂点を極めます。
「リバティ・バランスを射った男」「わが谷は緑なりき」「怒りの葡萄」「静かなる男」等。

ゲームの規則 ジャン・ルノワール
La Règle du jeu

第二次世界大戦で崩れ去る上流社会の崩壊を予見していたかのような作品。
浮かれきって英雄に群がり、増殖し続ける人々の狂騒と絶叫。
森林の木々を鳴らしまくり動物たちを追い立て、大量の猟銃を持ち込んでのウサギ狩りと響き渡る音、パーティー会場でも発砲しまくる乱痴気騒ぎ、物語を締めくくる銃声と死。
登場人物の回りをグルりと一周するように撮る360度パンフォーカスを最初に行った映画の一つでもあります。
「ピクニック」「のらくら兵」「十字路の夜」「大いなる幻影等。

市民ケーン オーソン・ウェルズ/ロバート・ワイズ
Citizen Kane
闇の中に消えゆく真相に回想形式で迫っていくウェルズのデビュー作。
キャメラは画面を切り替えることなく得体の知れない空間への侵入を繰り返し、水晶に閉じ込められ雪が降り続ける球体と小さな家、意図的にザラザラの粒子で撮られたニュースフィルム、謎を追い求める者たち、メディアの頂点に君臨した者、虚像を映す鏡の光。
怒り狂い部屋の中で怪獣のように暴れる孤独な王、遺産は摩天楼のようにそびえ、真実を焼き尽くす炎の衝撃。
第二次世界大戦後~ヌーヴェルヴァーグまで 15本
無防備都市 ロベルト・ロッセリーニ/フェデリコ・フェリーニ
Roma città aperta
「イタリア旅行」において、男と女と車さえあれば映画は撮れると証明したロッセリーニの、ネオレアリズモを象徴する作品の一つ。
車を追いかける者が薙ぎ倒される悲痛さ、人々の闘争と熱狂。
戦争によって破壊された映画の幻想的な世界、そこから生き残った人々が見る現実と幻想の狭間。
神の道化師、フランチェスコ」「ロベレ将軍」「ヴァニナ・ヴァニニ」「ドイツ零年」等。

イワン雷帝 セルゲイ・エイゼンシュテイン
Иван Грозный/IVAN GROZNYY
「雄呂血」で破壊された歌舞伎の様式美は、この映画で息を吹き返し昇華する。
蠢く雲と群衆、突き上げられる顎鬚と孤独な者の嘆き、燃え盛る巨大な蝋燭、色彩豊かな男たちの舞踊、謀殺。
白黒とテクニカラーの争いは、パート・カラーによる締めくくりで一つの決着を迎えます。
「メキシコ万歳」「ストライキ」「全線~古きものと新しきもの」「十月」等。

自転車泥棒 ヴィットリオ・デ・シーカ
Ladri di biciclette
ネオレアリズモ。
盗まれ、追いかけ、バラバラにされ、市場に散らばり消えていく自転車を追う者の絶望。
後のトリュフォーたちは、自転車の風が髪をなびかせる無邪気な疾走を「あこがれ」といった作品で発見します。
ウンベルト・D」「ひまわり」「ああ結婚(あゝ結婚)」「靴みがき等。

上海から来た女 オーソン・ウェルズ
The Lady from Shanghai
チャップリン「サーカス」で鏡による追っかけが繰り広げられ、マルクス兄弟「我輩はカモである」で存在しないはずの鏡がスパイ活動のスリルを加速させれば、ウェルズは鏡に囲まれた密室で人々の生死を刻む。
探索者は鏡と階段によって飲み込まれ、無数の虚像と睨み合い、亀裂と弾痕が銃撃戦を物語る。
以降ブルース・リー燃えよドラゴン等様々なアクション映画で鏡は閉鎖空間における緊張を跳ね上げることになっていきます。
「フォルスタッフ」「オセロ」「偉大なるアンバーソン家の人々」「黒い罠等。

夜の人々 ニコラス・レイ
They Live by Night
戦前からハリウッドを蝕んでいた赤狩り(レッド・パージ)の嵐は、ハリウッド・システムの崩壊も招いてしまう。
キャメラはハイウェイを疾走する車を追い続け、乗り込む人々も次の行動のため、抑えられない苛立ちによって絶えず蠢き続ける。
そんな我武者羅に動き続けた若者が、愛する女性を目の前にして立ち止まってしまう瞬間。
ラング「ただ一つの愛(暗黒街の弾痕)」から受け継がれた純愛は、ジョセフ・H・ルイス拳銃魔(ガン・クレイジー)によって犯罪を引き起こすアイテムに魅せられ破滅へと向かう恋人たちの狂気へ。
「孤独な場所で」「理由なき反抗」「大砂塵」「危険な場所で」等。

肉体の冠 ジャック・ベッケル
Casque d'or
儀式や挨拶代わりに平手打ちが繰り返され、女たちは男を狂わせ、開閉される扉や空間を隔てる壁によって絶えず事件が引き起こされる。
人を愛するが故に引き起こされる殺人の物語は、ヨーロッパにノワールが蘇った瞬間でもあります。
「穴」「現金に手を出すな」「モンパルナスの灯」「アラブの盗賊」等。
雨月物語と共にヌーヴェルヴァーグからアメリカン・ニューシネマにまで続いていく衝撃を奔らせた作品。
人は次々に移動を繰り返し愛し合っては死んでゆき、キャメラはその光景を遠くから傍観する
あるいは成瀬三喜男浮雲
近松物語」「瀧の白糸」山椒大夫」「残菊物語」等も必見。
大人の見る繪本 生れてはみたけれど」「その夜の妻」といった作品で激しく動き続ける人々を描いてきた小津が、晩年に入り静かに時を刻んでいくことへ収束していく。
移動の果てにたどり着く海辺、別れ際に蘇るレオ・マッケリー「明日は来らず」の光景。
あるいは「晩春」の顔は笑っていても脚元の危うさでドキドキさせる自転車の疾走。

黄金の馬車 ジャン・ルノワール
Le Carrosse d'or
馬車が揺れ続けるように運動が止むことはない。
人々は無数の部屋を絶えず行き交い、ドアの開閉が繰り返されることで次の運動を呼び、劇中劇は「國民の創生」のように他者の干渉によって破壊される。

バンド・ワゴン ヴィンセント・ミネリ/フレッド・アステア
The Band Wagon
フレッド・アステアとシド・チャリシーが踊り狂うミュージカル映画の一つの到達点。
男女は歩きながら突然踊りだし、恋人たちの距離や人々の険悪な関係も踊って踊って踊る内に修復されてしまう。
若草の頃」「悪人と美女」「ブリガドーン」「巴里のアメリカ人」等。

反撃の銃弾 バッド・ベティカー
The Tall T

戦後に進化を遂げた「超西部劇」群を代表する一本。

殺人捜査線 ドン・シーゲル
The Lineup

本当は殺し屋ネルソンをあげたいところですが、未dvd化。
「仮面の報酬」等でスクリーン・プロセス(合成)を巧みに駆使しうねる山道で車や動物をスレスレに避ける猛烈な追跡劇を撮ったシーゲル。
今作では人も容赦なくハネ市街地にまで突っ込む狂気の全力疾走。
ダーティハリー」「ラスト・シューティスト」「ボディ・スナッチャー等。

スリ(掏摸) ロベール・ブレッソン
Pickpocket
二次元から四次元的な精神世界を描くシネマトグラフ。
盗人たちは観客に見せ付けるように、出会いを求めるようにゆっくり、確実に手を伸ばすという行為を繰り返す。
宗教を描き神を否定するドライヤーからブレッソンたちへのリレー。
「抵抗(レジスタンス)-死刑囚の手記より」「バルタザールどこへ行く」「少女ムシェット」「ラルジャン等。

アメリカの影 ジョン・カサヴェテス
Shadows
映画に代わるかのように拡大したTV業界の波。
それは同時に映画技術とTV技術の融合の始まりを意味し、リュミエールが創造しフラハティーが完成させたドキュメンタリーはカサヴェテスによってまた一つ進化を遂げる。
人でごった返す密室、黒い影のように蠢く人々、生の人間たちの息遣いや生活の様子はアメリカにおけるインディペンデント映画の先駆け。
他は「オープニング・ナイト」「ラヴ・ストリームス」「グロリア」等。

大人は判ってくれない フランソワ・トリュフォー
Les Quatre Cents Coups
勝手にしやがれで破壊される前の活劇めいた青春の無邪気さ。
子供たちは脱出と侵入を繰り返し、密室でも動き続けた少年が広い空間で狭苦しそうに運動を止めてしまう光景。
「思春期」「アメリカの夜」「突然炎のごとく」「柔らかい肌」等。
ヌーヴェルヴァーグ以降 10本
勝手にしやがれ ジャン=リュック・ゴダール
À bout de souffle
アメリカ映画へのオマージュを捧げた活劇。
協力者から贈られる視線と合図、振り向いた瞬間に路上を疾走する光景へ飛ぶように走り出す自動車。
トリュフォーが用意したシナリオごと破壊し、再構築してしまう流れはクエンティン・タランティーノレザボア・ドッグスといった後続にも受け継がれていく。
「はなればなれに」「女は女である」「軽蔑」「気狂いピエロ等。

サイコ アルフレッド・ヒッチコック
Psycho
映画史には不意に襲いかかる恐怖が刻まれてきましたが、このホラーテイストの衝撃はその歴史を破壊するような事件の一つ。
カーテンは黒い影の接近を物語り、階段を昇るのは恐怖が襲い掛かることを予告する。
レベッカ」「汚名」「見知らぬ乗客」「バルカン超特急等。

情事(ラ・ヴェントゥーラ) ミケランジェロ・アントニオーニ
L'avventura
扉が開け放たれた先に拡がる海原、孤島に閉じ込められた空っぽの街、部屋、教会、鏡に映るもの、断たれてしまった愛の行方を追い続けるロードムービー
「夜(ラ・ノッテ)」「太陽はひとりぼっち」「赤い砂漠」「欲望」等。

去年マリエンバードで アラン・レネ/アラン・ロブ=グリエ
L'Année dernière à Marienbad
過去・現在・未来が絡み合い黒澤明羅生門がより複雑怪奇になった迷宮のような空間。
「六つの心」「戦争は終った」等。
「夜と霧」「二十四時間の情事は覚悟を決めてから。

8 1/2(オット・エ・メッツォ) フェデリコ・フェリーニ
Otto e mezzo
不可思議な虚構世界に迷い込み、夢と現実を行き来する映画の一つの転換期を象徴する作品。
「アマルコルド」「カビリアの夜」「道」「甘い生活等。

ガートルード(ゲアトルーズ) カール・テオドア・ドライヤー
Gertrud
「吸血鬼」によって精神的な次元の壁を超え、晩年の「奇跡」と本作で四次元すら超越する。視線を交じ合わせない人々が、ふと愛する相手や鏡の中の人間と目が遭う瞬間。
「彼等はフェリーに間に合った」「怒りの日」等。

仮面-ペルソナ イングマール・ベルイマン
Persona
分身によって鏡を出現させる実験の繰り返しであり、発展型の一つ。
強烈な映像と言葉が吐き出され続け、それを受け止める者の沈黙。
「恥」「狼の時刻」「ファニーとアレクサンデル」「野いちご」等。

さすらい ヴィム・ヴェンダース
Im Lauf der Zeit
都会のアリス」「まわり道」から続くドイツ時代のヴェンダース三部作を締めくくる作品。
ロードムービー何故移動するのかという巨大な自然の中を少しずつ、時に猛スピードで動き続ける運動をひたすら捉え続ける映像。
水面は巨大な鏡となって旅人たちの表情を捉え、小津の静寂、レイの苛立ちを抱えた人々。
パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩等。

未知との遭遇 スティーヴン・スピルバーグ/フランソワ・トリュフォー
Close Encounters of the Third Kind
「激突!」「ジョーズで未知への恐怖を描き、このSFファンタジーから遭遇を描く。
霧の中から突如姿を現すジャン・エプスタイン「アッシャー家の末裔」黒澤明蜘蛛巣城から続くリスペクトの系譜。
E.T.」「シンドラーのリスト等。

映画史 ジャン=リュック・ゴダール
Histoire(s) du cinéma
映画の歴史を総括した究極の一本。映画は次元の壁を越えて一つに結ばれる。