映画における意味のある「緊迫感」

※このページは様々な映画のネタバレを含みます

●最初から最後までロクなことが起きない系

遊星からの物体X ジョン・カーペンター
日本のいちばん長い日 岡本喜八
恐怖の報酬 ウィリアム・フリードキン
 
緊迫感がある、始まりから終わりまで緊張が続くというのは、絶えずロクでもないことしか起こらない映画にこそ意味があると思うのです。
あまりに描写がイカれていればギャグにもなってしまいますが、背筋が凍るような演出・展開がそれを説得力のあるものに変える。
 
例えばカーペンターのSFホラー遊星からの物体Xは冒頭から得体の知れないヘリが何かを追い続け、とんでもない置き土産をして死んでしまう。
そこから今度はいつ何が起きるのか、敵が何処から襲ってくるのかという恐怖と不安で画面に緊張が漲り続ける。
ハワード・ホークスリオ・ブラボーにリスペクトを捧げた要塞警察により磨きをかけた閉鎖空間の息苦しさ。
気づけば逃げ場のない孤立した環境、この地獄からいつ解放されるのかと胃がキリキリする思いで見続けることに。
 
また岡本喜八による戦争映画「日本のいちばん長い日」は、初っ端から空襲で亡くなったと思われる焼死体の写真を見せつけまくり『こういう映画だけど覚悟のある奴だけ付いてこい』と超親切に振るいにかけてくれます。
ただ焼死体の写真が出てくるのは冒頭と終盤だけ。
なんせ国民が惨たらしく死んでいく中でキチガイ軍人どもが終始異常なテンションで内ゲバを繰り広げ続るんですもの。
戦いを終わらせる鍵をめぐる腹の探り合い、争奪戦のサスペンスフルな展開が続く。
蒸し暑い中で一触即発、抜刀、銃撃で次から次に死んでいく。
 
フリードキン版「恐怖の報酬」はクルーゾー版にあった異常な緊張状態が最初からブチかまされる。
絶えず誰かに追われているという状況が続くことで、平和なひと時でさえ気が抜けない。

●平和な一時からはじまる系

ダイ・ハード ジョン・マクティアナン
穴 ジャック・ベッケル
●不穏な空気がある系
・炎628 エレム・クリモフ
・エイリアン リドリー・スコット
 
平穏な日常から突然恐ろしい目に遭うパターンは、リラックスしていた観客を叩き起こすような衝撃を味合わせてくれます。
 
ダイ・ハードは巻き込まれ型犯罪アクション。
油断しているところに文字通りズドンとかましてくれます。
パーティー気分は一変、高層ビルはたちまち恐怖の檻へと早変わり。オマケに戦えるのは自分だけという孤独。
 
ベッケル「穴」は刑務所で監視の目を盗みながら淡々と計画を進めていくスリル。
入獄した檻で知ってしまう秘密の計画、バレたら一発で終わってしまうというハラハラ。積み上げがどこまで成功するか、あるいはいつ終わってもおかしくない。
ロベール・ブレッソン「抵抗」もまたしかり。
 
クルーゾー「恐怖の報酬」は自分から志願して行く地獄の運搬ツアー。
薄汚れた街並みの雰囲気、舞い込んでくる怖ろしい仕事の話、無限に燃え盛る炎の不気味さ。
序盤の退屈さは悪夢を盛り上げるための丁寧な積み重ね、そして『ちょっとした振動で木っ端微塵に消し飛ぶ』ニトログリセリンの登場が一気に空気を引き締める。
 
この手の映画のいいところは平穏な日常に戻りたい、自由を取り戻したいと足掻き続ける様。
息抜きとして挿入される場面が良い塩梅だったりします。
 
さてこの平穏な日常パターンにも微妙に趣が異なる系列があります。
平穏は平穏だけど不穏な空気をはらんでいるパターンです。
 
クリモフ「炎628」は戦争の理不尽さをこれでもかとぶち込んだ恐怖。
空を飛ぶ偵察機が不気味な重低音を響かせ、子供たちも武器を漁ったり微笑ましくない光景から始まる。
 
リドリー・スコット「エイリアン」も宇宙空間という無限に広がる暗闇、平和な宇宙旅行が気づけば逃げ場のない密室で足掻き続ける。

●終盤まで何も起きねえ系

・真昼の決闘 フレッド・ジンネマン
・上意討ち 拝領妻始末 小林正樹
 
その時が来るまでひたすらピラミッドの如く我慢に我慢を重ねるパターン。我慢の限界でドッカーン大爆発!!!の快楽。
それまでひたすらウンザリするような会話のやり取り、理不尽な仕打ち、クッソ重い話を延々聞かされ存分にイライラさせてくれます。
その積み重ねに共感できるかできないかで作品への印象もがらりと変わることでしょう。
せっかくの緊張も何もないと分かった途端にガッカリさせてしまう。思ったより無駄に感じる場面があればかえって眠気をさそう。
そうならないよう、どう観客の興味を引けるか。物語を巧みにするか、あるいは登場人物を魅力的にするか。
 
「真昼の決闘」「上意討ち 拝領妻始末」は冒頭でワクワクさせておきながら、その時がくるまで思わせぶりなことをしては何もしないの繰り返し。
 
小林正樹切腹はミステリー形式で徐々に真相が明かされていく。
上記と違い途中で見せ場と言える展開もありますが、それもメインイベントへの積み重ねの一つに過ぎない。
 
弦をギリギリ引きに引き限界ギリギリまで緊張を高め続ける。そしてその瞬間が訪れ終わった後も、爽快感の欠片もない虚しさで締めくくる。
殺し合いでスカッとするわけねえだろうがと言わんばかりに。
まあ、その後味の悪さが妙な快楽になるんでしょうね。
こういう映画は初見でまずどういう内容か把握し、二回、三回と見返すたびに良さに気づき味わいを増していく作品だと思います。見返す気になるかどうかですが。