非公開試写版「荒野の決闘(いとしのクレメンタイン)」

荒野の決闘 非公開試写版
My Darling Clementine
 
※以下、多大なネタバレ要素を含みます。それでもOKという方だけ、↓へどうぞ
 
●非公開試写版(PREVIEW VERSION)について
一般に広く知られる荒野の決闘怒りの葡萄わが谷は緑なりきといった傑作でフォードと組んできたダリル・F・ザナックザナックの依頼を受けたロイド・ベーコンが手を加えたもの。
その手を加えられる前のフォードのオリジナルこそ「いとしのクレメンタイン(荒野の決闘)」。それが収録された荒野の決闘 特別編」の二枚組となったDVDの内のDISC2
 
試写版から削られた場面は以下の通り。
・チワワがドクが帰って来たという知らせをビリー・クライトンから受ける場面。
ビリーはチワワに気があるのか彼女に口づけをしようとするが、チワワはドクのことを愛しているので顔を背け、ビリーの唇は頬に逸れる。チワワはビリーを軽くあしらう。

・アープがドクからシャンペンをもらうシーン。
アープが苦い顔をした後にシャンペンの感想を述べる。
 
シェイクスピアの役者を劇場で待つ場面はドクが人ごみをかき分けて席に座る過程、酒を注ぐ男性、左頬に傷のようなものを付けたドクが散髪屋の話題をする。

頬のカミソリの跡を指でなぞる
 
駅馬車の停車場の床にて。
アープが椅子に腰をかけるまで床を歩いて椅子を探し、散髪屋の代わりに別の男がアープに椅子を差し出す。アープが腰をかけてから駅馬車の到着を知らせるトライアングルを鳴らす女性が部屋の奥から二人歩いて来てアープに挨拶をする。その一連の場面で「いとしのクレメンタイン」が静かに流れている。

挨拶を交わす平和な一時を象徴する場面
 
・クレメンタインとアープが出会うシーン。
劇場公開版ではクレメンタインの美しさに魅せられたアープの心情を表すように「いとしのクレメンタイン」が高らかに流れる。
試写版ではクレメンタインがドクの部屋を訪れ、彼女の心情を表すように「いとしのクレメンタイン」が静かに流れ始める。
 
・ドクとクレメンタインの会話が短くまとめられる。
 
・アープが散髪屋で鏡を見る前の場面。
幌馬車に乗り音楽を奏で、旅をしてきたであろう人々が次々に街に入って来るような描写。
 
・ドクが駅馬車を飛ばしチワワに銀行の金袋を投げるシーンにBGMがない。
 
・手術の場面でクレメンタインがドクの呼び掛けに応える場面。
アープが独り黙って口元に手をやりうなだれる。ロングショットでアープだけに光があたりその様子が強調されるかのよう。こんなにも素晴らしい場面をどうしてザナックが削ったのか理解不能

ドクを見つめるクレメンタインは白く輝き、

それを見守るアープは黒い影を落とし黙り込む。

そういった二人の対比があることで初めて、劇場公開版にも使われたアープだけに光を当て、彼の孤独な姿をロングショットで捉えたシーンが活きてくるのです。
 
・ヴァージルがビリーを追跡するシーンも試写版の方が長い。

 
銃撃を喰らい馬が驚いて脚をあげ、ヴァージルが馬ごと砂の斜面を転げ落ちてしまう一連のアクション。砂の斜面での場面は映画の予告でも使われています。
 
・アープがドクを気に掛けるセリフや仕草が試写版の方が多い。
モーガンたちがドクを見やり、アープとモーガンの街の人々との別れ、クレメンタインの部屋の窓を一瞥、アープはクレメンタインに握手だけをして去っていく。
 
劇場公開版でもアープが決戦の直前に彼女の部屋の窓を一目見ていましたが、試写版では決戦前と後にその動作を繰り返すことで意味を強めていたようです。

共に戦った者との別れ
 
 
これに比べると、劇場公開版のアープはドクのこともあっさり流し、町の人々に何の挨拶も無く旅立ち、クレメンタインに恋愛感情でもあるかのように頬に軽い口づけをして去っていく。
 
個人的にフォードのオリジナル版は、ドクに想いを寄せている節のあったクレメンタインをアープが気遣い、握手だけで済ませたのかな・・・という印象。ビリーやモーガンといったあまり掘り下げられなかった人物にも一瞬光を差すようなシーンが多かったですし、私はフォードのオリジナル版の方が好きですかね。
 
ちなみに、夜に駅馬車が着くシーンは試写版にはなく、試写版の内容に違和感が生じないようにロバート・ ギットが編集したとのこと。いやいや別にあなたの編集がなくとも大体のことはわかりますよ。そんな紛らわしいことをしないで欲しかった。あなたの解説を見ない者が「フォードがあの編集をした」と誤解したらどうするのですか。
ザナックやフォードを責めないで欲しいですって?そうですか、あなたを責めていいなら脳味噌をショットガンで吹き飛ばしてやりたい気分ですよまったく。