ベンヤミン・クリステンセンの「魔女」-ホラー映画の元祖的傑作

魔女
Häxan
 
デンマークのカール・テオドア・ドライヤーの師匠的存在、ベンヤミン・クリステンセンによるドキュメンタリーとフィクションをゴチャ混ぜにしたカオスなホラー映画。。
 
今見れば恐怖はまったく無いかも知れませんし、終始ゆったりした展開で退屈に感じるかも知れません。
ただ、その映像の凄さに酔えるか酔えないかだけ。

冒頭からしばらく流れ続ける不気味な悪魔のイラストや解説。悪魔に対する歴史的考察は中々勉強になります。そこからオムニバス形式で悪魔に取り憑かれた人間たちの狂乱の連続、空を飛びかう不気味な魔女たち。
悪魔に誘われ犯されていく女性たち、サバトの醜悪な宴、気の触れた修道女たちの醜態・魔女に間違われた女性たちを恐怖させる拷問器具の不気味さ。

背中からだけでも伝わるエロス

その異様さは何処かユーモアさえあるのではないでしょうか。特殊メイクによって作られた悪魔の造形も凄い。
魔女狩りや異端裁判といった中世の呪われた歴史も絡んできます。とにかく凝りに凝った映像で見る者を圧倒する作品。ホラー映画好きな人、超オススメですよ。
 
しかもクライテリオンのDVDには特典として1968年に再上映されたver.が収められているのです。
といっても、ジャズ音楽やウィリアム・バロウズのナレーションが加えられたものですが。まあトーキー全盛の時代でしたからねえ。かといって、上映時間が本編より短いし、画面を上下左右カットしたりと狭苦しいったらありゃしません。
ですが、今でもサイレント映画に慣れ親しんで貰おうと音楽の追加や活動弁士は現役です。それをこの頃からやっていたと思うと大変興味深い事です。

でも、サイレント映画はやっぱり映像だけで語から面白いと思うんですよ。例えば、トーキーでもサイレントの演出が多い作品をあえて完全なサイレントで流す上映会とか。無いですかねえそんなの。ジョン・ケージ4分33秒みたいに観客のざわつきがサウンドになるような。
 
※8月28日 加筆
ジョルジュ・メリエスが撮った「悪魔の館」が最古のホラー映画だとすれば、この映画はF.W.ムルナウ吸血鬼ノスフェラトゥファウスト等と共にサンレント期におけるホラー映画の一つの完成形ではないでしょうか。