フィルム・ノワールベスト100①

●「フィルム・ノワール」について

数ある映画の中で、フィルム・ノワールほど曖昧かつ広範囲に当てはまるジャンルはありません。

基本的要素としてよく挙げられるのが、
・回想形式で語られる物語
・道徳的定義を持たない登場人物
・退廃的な世界観
・煙草の煙が作り出す雰囲気
・男を破滅へと導く女性(ファム・ファタール)の存在等々。
しかしこれらの要素を一つも満たさないノワールも存在し、よくノワールとして数えられるアルフレッド・ヒッチコックの映画や「ニュー・フィルム・ノワール」「香港ノワールといった作品はノワールとして疑問視もされているようです(正直よくわかりません)。
そこに共通するのはスリラー(ミステリーやアクション)であり、犯罪への恐怖と興奮、ロマンスが詰まっているという事は確かです。
今回は入門にも打ってつけな作品を前半50本から御紹介。
※2020年9月15日:加筆・修正。改定前

●オススメの傑作・名作たち

白熱 ラオール・ウォルシュ
White Heat
西部劇ベストで恋愛&逃避行死の谷を紹介。
本作は煙の噴出に始まり爆炎で締めくくられる犯罪アクション映画の傑作。フルスピードで追跡し橋の上から飛び乗るギャング団の列車強盗、突然襲い掛かる猛烈な蒸気。
その狂気をさらに加速させるファム・ファタールたちの存在。暴走を制御する母親、情婦すら震え上がる復讐、刑務所で殴り飛ばしまくる発狂、脱獄、警察との熾烈な駆け引き、信頼と裏切り。こんなにも狂いに狂ったマザコン野郎はコーディ・ジャレットしかいません。
ジェームズ・キャグニーは他に「彼奴は顔役だ!」、ゴードン・ダグラス「明日に別れの接吻を」、ウィリアム・A・ウェルマン民衆の敵、カーティス汚れた顔の天使もオススメ。

穴 ジャック・ベッケル
Le Trou

映画史を作った50本にて肉体の冠を紹介。
今作はベッケルによる脱獄映画の最高傑作。 
計画の工程を緻密に積み重ね、監視の目を避けながら作業を続ける緊張の持続、鏡と囚人たちの呼応、地道に掘って掘って掘りまくる脱出経路、土砂でも埋もれない漢の友情。一瞬の登場でも囚人たちの絆に亀裂を入れる女性の存在、待ち受ける衝撃の結末。
ジャン・ルノワールの元で学び犯罪活劇をフレンチ・ノワールとしてヨーロッパに復活させたベッケル、制作に協力したジャン=ピエール・メルヴィル、ジョゼ・ジョヴァンニたちが練り上げた究極のリアリズム。

男の争い ジュールス・ダッシン
Du rififi chez les hommes
ノワールでリアリズムを極めたダッシンが、フランスに渡り撮った時系列もの強盗映画。
前半のギャングたちによるハンマーで杭を打ち続ける金庫破りに始まり、後半の仲間たちとの確執から生じる壮絶な争い。おっぱいが溢れんばかりのマッサージ、窓から投げつけるもの、脅迫と電話、風穴から伸びる侵入経路。

キッスで殺せ ロバート・アルドリッチ
Kiss Me Deadly
ハイウェイを猛然と走る女性との出会いから一気に引き込まれる探偵もの。
中盤のポップコーンを顔面に浴びせ撃拳連打の階段落とし。特に終盤は拳が乱れ飛び、浜辺での追走、パンドラの匣、SF的なクライマックス。
犯罪者でも法の人間でもなく、時に犯罪を犯し、両方に加担または敵対し、ギャング以上に曖昧な存在の探偵。本作のマイク・ハマーは、何処までも冷徹な視線で事件を追っていきます。出会った女性や昔馴染みとの別れもあっさりと流し、精密機械のように仕事をこなしていく。そんなハマーと出会う女性たちは、何処か禍々しい謎を抱え彼等を巻き込む。

激怒 フリッツ・ラング
Fury
本作はメトロポリス「M」、1932年~1933年版ドクトル・マブゼの遺言(怪人マブゼ博士)」ノワールの誕生に影響を与えアメリカに渡った後も自ら傑作を量産したラングの渡米第一作。
ジョセフ・L・マンキーウィッツが制作に協力した裁判を題材に冤罪、指輪、ドイツ時代から描かれてきた群衆心理のパニックと恐怖、メディアリテラシーへの警鐘、ナチスに対する怒りと復讐の念。
是非とも死刑制度に対する問題を投げかけた「条理ある疑いの彼方に」とセットで。

殺人者たち ドン・シーゲル/ジョン・カサヴェテス
The Killers
シオドマク「殺人者」をよりヴァイオレンスにした作品(最初の映画化でもシーゲルは監督候補の一人だった)。
ブン殴るように始まる冒頭、サングラスを身にまとう殺し屋たち、馬鹿デカいサイレンサー、とにかく全員ド悪党。
他は映画史を作った50本でも紹介した市街地におけるカーチェイス「殺人捜査線」
SF「ボディ・スナッチャー、刑務所「第十一監獄の暴動」「評決(The Verdict)」、イーストウッドと組んだポストノワール刑事アクションダーティハリー等。

何がジェーンに起ったか? ロバート・アルドリッチ
What Ever Happened to Baby Jane?
アルドリッチ最高の一本でもあるサイコ・スリラー。
若く美しかった女優を襲う悲劇、老後の壮絶な憎しみのぶつけ合い。不気味な人形、エスカレートする狂気・厚化粧・踊り・歌声。浜辺で舞う瞬間に魅せる老いの美しさと哀しみ。
他は「ふるえて眠れ」「悪徳(ビッグ・ナイフ)」「枯葉」「ランサム世界」ノワール以外は労働運動と過激派の組合潰しを描きヴィンセント・シャーマンに引き継がれた「ガーメント・ジャングル」等。

深夜の告白(倍額保険) ビリー・ワイルダー
Double Indemnity
後の「失われた週末」サンセット大通りに先駆けた最初の傑作。
レイモンド・チャンドラーと練り合った冒頭から猛スピードで車がハイウェイを突っ走り、重傷を負った男がビルに駆け込み、そこから回想形式で謎を紐解いていく。
男は終始得体の知れない不安に苛まれ、それを魔性の女が喰らいつき破滅させる。逃亡時における車のエンジンが中々かからない瞬間の焦り、裏切りと別れを告げる銃撃は漆黒の闇に塗りつぶされる

過去を逃れて(信偽の果て) ジャック・ターナー
Out of the Past
ロバート・ミッチャムの眠たそうな表情がたまらない探偵もの。
過去がフラッシュバックする車の疾走からゆっくり加速していき、口づけをしたかと思うと猛烈な勢いで事件が絡み合う破滅への逃避行、嵐の中での戯れ、ドアや階段が煽る不安、山小屋における黒い影が蠢く殴り合い、思わぬ一撃による決着。
他は「ベルリン特急」等。

三つ数えろ(ビッグ・スリープ) ハワード・ホークス
The Big Sleep
映画史を作った50本にて「暗黒街の顔役(スカーフェイス)」を紹介。
私にとってノワールの始まりはヨーロッパでラング「M(エム)」の影響をダイレクトに受けたフランスのルノワール「十字路の夜」、そしてアメリカは「暗黒街の顔役」こそ真のノワールの始まり。
それこそ真っ先に見て欲しい作品ですが今作の紹介はリンク先へ移しました。
今作は探偵フィリップ・マーロウを映画化したハード・ボイルド。
レイモンド・チャンドラーの原作にウィリアム・フォークナーも脚本に参加した時系列もストーリーも複雑怪奇だけど面白い。
海から引き上げられるもの、一匹狼のマーロウが徐々に巨大な謎に飛び込んでいくスリル、サングラスによる変装、トレンチ・コートで腕を封じられる捕縛、車やドアに刻まれる弾痕と死。
受話器のやり取りやバーで競馬の話をする件は思わず爆笑。謎を追う者が身分を偽り探りを入れるくだりはブレードランナー等にも受け継がれる。
DVDの特別版には筋が分かり易い1945年版も収録されているので、見比べるのもオススメ。
ノワール以外はコレもハード・ボイルドな傑作「脱出」、刑務所と暗殺「光に叛く者(クリミナル・コード)」、制作に協力したウィリアム・フリードキンフレンチ・コネクション等。
同じくチャンドラー「大いなる眠り」を原作とするジョン・クロムウェル「大いなる別れ」もオススメ。
あるいは暗黒街の顔役不意に現れる殺し屋、流血の代わりに夥しいガラスが砕け散り、山のように薙ぎ払われる黒い影、跡には大量の弾痕が刻まれ墓標のように光が十字を描く。熾烈な抗争劇と滅びの世界、煙を吐き続ける煙草、妹に欲情し何もかも殺し破滅へと突き進んでしまう主人公。
後のブライアン・デ・パルマによるリメイクではキューバ系マフィアの栄枯盛衰が描かれる。
●関連ページへ
ヒッチコックやネオ・ノワールについてはその他スリラーベスト
ギャングものについてはギャング映画ベスト
和製ノワール日本映画ベストにて。

サンセット大通り ビリー・ワイルダー/エリッヒ・フォン・シュトロハイム他
Sunset Boulevard
グロリア・スワンソン、シュトロハイム、セシル・B・デミル、マック・セネット喜劇出身のバスター・キートンといったハリウッドを代表する俳優・映画監督たちが一堂に会した贅沢極まりないバック・ステージもの。 
回想形式で語り始める謎の声、シュトロハイム「メリィ・ウィドウ」、デミル「男性と女性」等を髣髴とさせる壮大かつ華美な装飾、繰り拡げられる女優たち強欲のぶつけ合い。
他はアルコール依存「失われた週末」 、マスコミの腐敗最後の切り札(地獄の英雄)」等。

汚れた血 レオス・カラックス
Mauvais sang
「ボーイ・ミーツ・ガール」ポンヌフの恋人を繋ぐアレックス三部作の二弾目。
SF、青春、恋愛映画と様々な要素も持ったフレンチ・ノワールで、ロベール・ブレッソンといった映画の記憶も溶け込み目まぐるしく過ぎ去る物語。
エイズを思わせる奇病に蝕まれた人々、ギャングの拳銃の鈍い輝き、バイクに二人乗りで森林からトンネルまで走り去る。裸足の少女を抱きかかえ、市街地や地下を駆け抜ける男女の接近を阻む列車の扉、破られる金庫と掟。カラックスたちがネオ・ヌーヴェルヴァーグとして蘇らせた活劇は、リュック・ベッソン「レオン」といったネオ・フィルムノワールにも受け継がれる。

現金に手を出すな ジャック・ベッケル
Touchez Pas au grisbi
「現金(げんなま)に手を出すな」。昔気質と新興勢力、新旧ギャングたちによる壮絶な金塊の奪い合いを描いたフレンチ・ノワール
破滅を招いた女たちへの怒りの平手打ち、終盤のカーチェイスと窓から放たれる銃撃戦!
他はノワール・ロマンス肉体の冠」「偽れる装い「怪盗ルパン」「最後の切り札、息子のジャン・ベッケルルが撮りメルヴィルも参加した「勝負(かた)をつけろ」等。

現金に体を張れ スタンリー・キューブリック/ジム・トンプソン
The Killing
ジグソーパズルを組むような強盗映画。時間を遡り緊張を高める競馬場襲撃までの流れ、花束に隠される銃、複数の悪女が絡み合い強盗団を一瞬で破滅させる銃撃戦、意外な動物が打つ終止符、タランティーノパルプ・フィクションにも受け継がれる時系列シャッフル。
他は非情の罠等。

その女を殺せ リチャード・フライシャー
The Narrow Margin
電車内におけるスリリングな時間経過、どんでん返しの連続に舌を巻く一本。
他はSF「ソイレント・グリーン」「見えない恐怖」「恐怖の土曜日」ノワール以外はフライシャー流「サイコ」絞殺魔等。

拳銃魔 ジョセフ・H・ルイス
Gun Crazy
トゥルー・ロマンス俺たちに明日はない-ボニー&クライド」に先駆けた逃避行。
「暗黒街の弾痕」夜の人々の純愛に、赤狩り時代の歪んだ愛情が狂気として加わる。
ミラード・カウフマン名義で脚本を手掛けたダルトン・トランボの物語、射撃コンテスト会場で劇的に結びつく男女、銀行強盗、セックスの暗示、トレンチ・コートとサングラスに身を包んだ襲撃、ぶっ飛んだカーチェイス、霧の中で見えざる存在として近づく警察の不気味さ。

アスファルト・ジャングル ジョン・ヒューストン
The Asphalt Jungle
計画的で流れるような宝石強盗を描くハード・ボイルド。欲望を凝視し群がる男女、扉を開いた瞬間に放たれる一撃、破滅への引き金、原石のように脇で転がるマリリン・モンロー

ビッグ・ヒート-復讐は俺にまかせろ フリッツ・ラング
The Big Heat
復讐を誓った刑事がたった一人でギャングに戦いを挑むハード・ボイルド。
拳銃の一発に始まりドアの開閉に終わる物語、ダーティハリーに先駆けた暴力描写、ゴッドファーザーでオマージュが捧げられた車の爆破、沸騰したコーヒーを顔面に浴びせかけるなど強烈な場面の連続。とにかく後半登場するグロリア・グレアムが最高。L.A.コンフィデンシャルに足りないものがこの映画にはあります。

スカーレット・ストリート(緋色の街) フリッツ・ラング
Scarlet Street
ルノワールの悲喜劇「牝犬」のリメイクにして、ラングのセンスが遺憾無く発揮された作品の一つ。
姉妹作飾窓の女は幻想的な麗人との悪夢的な一篇ですが、本作は悪夢が永遠に続くかのような恐怖。私はコチラの禍々しい肖像のインパクトに惹かれます。
他はメロドラマ「クラッシュ・バイ・ナイト (熱き夜の疼き/熱い夜の疼き)」、反ナチスマン・ハント、逃避行と恋愛「ただ一つの愛(暗黒街の弾痕)」 、マスコミの内部争い「口紅殺人事件」等。

仁義 ジャン=ピエール・メルヴィル 
Le Cercle rouge
 
戦争映画ベスト影の軍隊を紹介。
ベッケルの後継者としてフレンチ・ノワールを撮り続けたメルヴィル。本作は後のマイケル・マン「ヒート」渡辺信一郎カウボーイビバップ等にも受け継がれるプロフェッショナリズムに最も磨きのかかった作品。
信頼する仲間を守り、金庫を破り、裏切り者を葬るための銃撃の数々。淡々かつ異様な緊張に包まれた銀行襲撃!アラン・ドロンの最高傑作はコレと「サムライ」ですね。

街の野獣(ナイト・アンド・ザ・シティ) ジュールス・ダッシン
Night and the City
イギリスのロンドンを舞台に一攫千金を夢見るギャングたちの狂気、プロレスラーたちの死闘、常に誰かに追われ続ける恐怖、命は海に投げ捨てられる。リチャード・ウィドマーク!
他はボリス・カウフマンと組みジョン・フォード「男の敵」をベースに黒人公民権運動を描いた「アップタイト(Uptight)」、ドキュメンタリー・タッチの刑事アクション「裸の町」、刑務所における「真昼の暴動」「深夜復讐便(泥棒たちのハイウェイ)」等。

孤独な場所で ニコラス・レイ
In A Lonely Place
映画史を作った50本にて夜の人々を紹介。
今作はマイケル・ジャクソン「スムーズ・クリミナル」に引用された事でも知られる傑作の一つ。
赤狩りにおける人間不信の時代を象徴するようなレイの映画は、絶えず何かにイライラして怯えている人物が多い。この作品もハンフリー・ボガートが苛立ちを募らせ、エスカレートする異常な行動によってグロリア・グレアムさえ震え上がらせ、巨大なトラブルの引き金となってしまうほろ苦いロマンス。
他は鮮烈な口づけと車の疾走から始まる逃避行夜の人々「危険な場所で」「暗黒への転落」「暗黒街の女等。

グロリア ジョン・カサヴェテス
Gloria
「レオン」の原型であり、シベールの日曜日からの流れも組むハードボイルド。
託される子供と意志、腹を括り拳銃片手に撃ちまくり車をブッ転がし、マフィアたちと渡り合うジーナ・ローランズの頼もしさ。
他は「チャイニーズ・ブッキーを殺した男」等。

ミルドレッド・ピアース(深夜の銃声) マイケル・カーティス 
Mildred Pierce
カーティスの最高傑作はカサブランカなんかじゃありません。銃撃に始まり銃撃に終わるフルスピードの高密度、原作のジェームズ・M・ケインをはじめ複数の人間が練り上げたこのジョーン・クロフォードの名演、時系列を巧みに利用した展開のノワール・ロマンスこそ真骨頂。
シーゲルによるリメイク「密輸入者たち(The Gun Runners)」もオススメ。
他はホークス「脱出」をリメイクした破局「トゥルークライム殺人事件」等。

悪の力 エイブラハム・ポロンスキー/ロバート・アルドリッチ
Force of Evil
「フォース・オブ・イーヴル」「苦い報酬」。資本主義社会の闇を描く社会派ドラマ。ギャングの賭博や弁護士等が複雑に絡み合い、金庫に隠されたもの、レストランに押し寄せる裏切りと暴力。ギャングたちが終始息苦しい緊張の中で破滅へと向かう光景はマーティン・スコセッシグッドフェローズで再び蘇る。

ボディ・アンド・ソウル(背信の王座) ロバート・ロッセン他
Body and Soul
スコセッシレイジング・ブルの源流となったボクシング界の腐敗を描く作品。
八百長を巡る心理・拳と言葉による殴り合い、悪夢のような取引、病に蝕まれるも尊厳を持って戦い抜くアフリカ系(黒人)ボクサー。脚本にエイブラハム・ポロンスキー、助監督アルドリッチ、編集ロバート・パリッシュ、撮影ジェームズ・ウォン・ハウ等そうそうたる面々が集った逸品です。
ノワール以外は他にギャンブラーのビリヤードハスラー、破滅へと向かう政治劇「オール・ザ・キングスメン」等。

罠 ロバート・ワイズ
The Set-Up
ヒッチコック「ロープ」のように劇中の時間と上映時間が同時進行する作品。コレも八百長によって腐敗したボクシング界。この作品の対極と言えるのが「傷だらけの栄光」
他は「生れながらの殺し屋(執念の殺し屋)」、西部劇「月下の銃声」等。

拳銃の報酬 ロバート・ワイズ/エイブラハム・ポロンスキー
Odds Against Tomorrow
「ビッグ・ヒート」と並んでグレアムが最も魅力的な作品の一つ。銀行強盗の計画を狂わせる人種差別的偏見、黒人と白人の衝突ごと吹き飛ばすような結末。
他はセミ・ドキュメンタリータッチ「捕われの町」等。

ビッグ・コンボ(暴力団) ジョセフ・H・ルイス
The Big Combo
ジョン・アルトン(ジョン・オルトン)のキャメラが最も神がかった作品の一つ。
霧、夜、リーヴァン・クリーフ演じる殺し屋とボスの奇妙な関係(アッー!)も面白い。
他は「私の名前はジュリア・ロス」「脱獄の叫び」等。

恐怖のまわり道 エドガー・G・ウルマー
Detour
ドイツ時代にラングの元で優れた美術センスを発揮し、F.W.ムルナウにも師事したウルマーが撮った摩訶不思議なロード・ムービー。

殺しの分け前-ポイント・ブランク ジョン・ブアマン
Point Blank
悪夢のような世界でギャングたちに復讐を続けるハード・ボイルド。
過去と現在が入り乱れ、死神が付きまとい、色彩の暴力が雪崩れ込む。アルカトラズからの脱出、神出鬼没の謎の刑事、裏切った者が寝ていた空間に浴びせる銃撃と怒り。
あるいは爽快な悪党振りで魅せるブライアン・ヘルゲランド&メル・ギブソン「ペイバック」

拳銃貸します(用心棒志願) フランク・タトル
This Gun for Hire
復讐を誓った者の戦いを描く作品。 ヴェロニカ・レイクの可憐さ、操作場での格闘、腕をへし折るアラン・ラッド、メルヴィル「サムライ」にも受け継がれる孤独な殺し屋の生き様。
他はリチャード・ブルックス脚本「いかした男(Swell Guy)」「女房盗塁」等。

ハイ・シエラ(ハイ・シェラ) ラオール・ウォルシュ/ジョン・ヒューストン
High Sierra
別題「終身犯の賭け」。終盤のカーチェイスやギャング時代のボガートの壮絶な生き様、後に女流監督として活躍するアイダ・ルピノの悪女振りが刻まれた逃避行もの。
西部劇風のノワールは他にノーマン・パナマ「拳銃の罠」等。

十字路の夜 ジャン・ルノワール/ジャック・ベッケル
La nuit du carrefour
水の音が神秘的に響き渡る元祖ノワール。ジュール・メグレ警部の捜査、複雑なプロット、ドア越しに車上から襲い掛かる銃撃、終盤のチェイスと一瞬の狙撃!
他は蒸気機関車の疾走の迫力「獣人」浜辺の女等。

サムライ ジャン=ピエール・メルヴィル
Le Samourai
孤独な殺し屋の生き様を描いた傑作。

いぬ ジャン=ピエール・メルヴィル
Le doulos
コレもタランティーノがレザボア・ドッグスでリスペクトを掲げた作品。
男が延々と歩き続けるシーンから複雑に絡み合っていく密告者(いぬ)たち。
他は遺作となったギャングアクションリスボン特急」、入門にもオススメな愉快で切ないギャンブル「賭博師ボブ」等。

影なき狙撃者(失われた時を求めて) ジョン・フランケンハイマー
The Manchurian Candidate
ケネディ大統領暗殺事件を予言していたかのようなサイコ・スリラー。
洗脳の恐怖とスパイ、狙撃、フランク・シナトラの空手!
他はブラック・サンデー等。

殺人者 ロバート・シオドマク/ジョン・ヒューストン
The Killers
二人の殺し屋が乗り込んでくる冒頭、ギャングによる流れるような現金強奪、複数の人間が絡み合い過去を紐解いていき、探偵のように振舞う保険調査員、元ボクサーを破滅に導く黒衣のエヴァ・ガードナーのエロティックさ。
他は「らせん階段」「幻の女」「暗い鏡」等。

黒い罠 オーソン・ウェルズ
Touch of Evil
映画史を作った50本にて「上海から来た女」を紹介。
今作は冒頭から仕掛けられた爆弾が炸裂するまでをワンショットに収め、麻薬捜査官、悪徳警官、ギャング団が絡み合う縄張り争い。膨れ上がるウェルズの巨体は、警察組織そのものの闇を現しているのかも。
市民ケーンノワールとしての特徴を持っているそうですが、私は後年の作品の方が遥かに面白いと思います。今作はそれを証明する傑作の一つです。
他は刑事コロンボに先駆けた叙述式スリラーストレンジャー(ナチス追跡)」、俳優として出演したキャロル・リード「第三の男」等。

狩人の夜 チャールズ・ロートン他
The Night of the Hunter
脚本にジェイムズ・エイジー(ジェームズ・エイジー/ジェームズ・アギー)、チャールズ・ロートンが唯一監督としても腕を振るったホラーテイストのサイコ・スリラー。
市街を見下ろすような空撮、父が残す遺言、湖に沈められるもの、川への脱出、ライフル抱えて迎え撃つリリアン・ギッシュのばあちゃんの頼もしさ。
ジェームズ・エイジーの脚本も素晴らしい。
車を盗みポルノ小屋で捕まり、白い馬にまたがり延々と追いかけてくるミッチャムがひたすら怖い。「LOVE&PEACE」ならぬ「LOVE&HATE(愛と憎悪)」。偽牧師には御用心。

成功の甘き香り アレクサンダー・マッケンドリック
Sweet Smell of Success
ショービジネス界の内幕を暴き、マスゴミの薄汚さにも迫る社会派ドラマ。
ニューヨークの夜間撮影の美しさ、ジャズの場面の楽しさが嘘のようにドロドロとしたブロードウェイの裏側へ。他人の秘密を暴き立てる新聞コラムニスト、ネタ集めに奔走するエージェント、悪徳刑事たちの悪辣な協力関係。妹に欲情する兄の策略が招く破滅。

チャイナタウン ロマン・ポランスキー/ジョン・ヒューストン
Chinatown
ロサンジェルスを舞台に、殺人事件と社会の巨大な闇に巻き込まれる探偵もの。
複数の写真、時計の破損が物語るもの、車が急接近するように縮まりまた離される男女の関係、ヒューストンの圧倒的存在、ナイフを鼻に突っ込むポランスキー。

ガス燈 ジョージ・キューカー
GASLIGHT
ソロルド・ディキンソンの傑作をリメイクしたコレまた傑出した逸品。不気味な屋敷等を舞台にしたゴシック・ノワールを代表する一本で、サイコ・スリラーを圧倒する終盤ブチ切れイングリッド・バーグマンの燃えるような瞳!この映画の彼女はヒッチコック「汚名」と共に一番好きです。
他は「二重生活」等。

ローラ殺人事件 オットー・プレミンジャー/ルーベン・マムーリアン
Laura
回想形式で事件の真相に迫る刑事もの。
ショットガンが引き起こす悲劇、美しき亡霊に心を奪われてしまう野郎ども、女たちは嫉妬に狂う。ジーン・ティアニーはジョン・M・スタール哀愁の湖も最高。
他は裁判或る殺人、ミッチャムの破滅「天使の顔」、麻薬を題材にしたギャンブル「黄金の腕」「野望の系列」「歩道の終わる所等。

忘れじの面影 マックス・オフュルス
Letter from an Unknown Woman
ドイツ出身のオフュルスがウィーンへの思いを込めたノワール・ロマンス。
他は「魅せられて」等。

ギルダ チャールズ・ヴィダー
Gilda
本来は赤毛が美しいリタ・ヘイワースが、艶やかな黒髪をなびかせ踊り狂い、男たちを堕落させるノワール・ロマンス。投げられる衣服、賭博場における亀裂、仕込み杖。
彼女の男たちを破滅へと導くファム・ファタールとしての神話的存在は、ショーシャンクの空にで秘密を覆うベールとしてマリリン・モンローラクエル・ウェルチと共に機能する。男は映像の中の無実の罪に苦しむ彼女と自身の境遇を重ね合わせる。

ロング・グッドバイ ロバート・アルトマン
The Long Goodbye
フィリップ・マーロウを最もチャらく魅力的に描いた作品。
事件の真相を探る旅、浜辺での戯れ、用心棒アーノルド・シュワルツェネッガーの存在。
主人公のキャラクターと独特の世界観は松田優作探偵物語を経てスペース・オペラカウボーイビバップへ。

アルファヴィル ジャン=リュック・ゴダール
Alphaville, une étrange aventure de Lemmy Caution
SFノワールの先駆けの一つ。過去と未来、探し物、涙を流し殺されていく男たち、支配者を粉砕する“愛”の言葉、浜崎容子や伊坂幸太郎といった作品世界にも引用されていく洪水のように言葉が溢れる世界。
他は続編となる短編「未来展望(愛すべき女・女たちに収録)「新ドイツ零年」ゴダールアンナ・カリーナもやっつけで撮ったメイド・イン・USA等。

ピアニストを撃て フランソワ・トリュフォー
Tirez sur le pianiste
アメリカのノワール等へのオマージュに溢れた作品。とにかくしっちゃかめっちゃか。後おっぱい。そのリスペクト精神はジョナサン・デミ等へ受け継がれていく。
他は黒衣の花嫁」「日曜日が待ち遠しい!」「暗くなるまでこの恋を」等。

マルタの鷹 ジョン・ヒューストン
The Maltese Falcon
前半50本を締めるのは探偵サム・スペードと殺し屋、悪女たちがばかし合いを繰り広げるハード・ボイルド。

●日本未dvd化2本

アーカディン-秘密調査報告書(秘められた過去) オーソン・ウェルズ
Mr. Arkadin

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世界を又にかける大富豪の謎に迫るスリラー。
仮面、酒盛り、降りしきる雪、港と船、ウェルズの厳粛とした黒衣と孤独。

無警察地帯 フィル・カールソン
THE PHOENIX CITY STORY

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 セミ・ドキュメンタリー・タッチで描かれるギャングもの。
住人、地方検事たちが絡み合う対立、人種差別にまで踏み込み容赦ない暴力が吹き荒れる。
猛烈に疾走する車から吐き出される変わり果てた姿の者、突き飛ばされる自転車、手紙。